たこシャン
ここれさんはある日、突拍子もない友人から突拍子もなくワインが送られてきました。
ときどき気まぐれで京都から何かしらを送ってくるおのぼりさんからの差し入れです。
あいかわらず綺麗に一列には揃わない手書き文字でこう綴られていました。
「たこ焼きに合うシャンパン、たこシャンやで〜」
それだけではよく分からなかったので、ここれさんは調べてみました。
おのぼりさんが送り主に一つ手間を増やしてくるのが、ここれさんは意外と好きだったりします。
どうやら大阪でたこ焼きに合うようにと作られたワインのようです。
たこ焼きとシャンパン、ここれさんは想像つかない組み合わせにワクワクします。
ここれさんはさっそく商店街や市場へ行ってたこシャンの材料を揃えます。
たこ焼き粉にソースにかつぶしに青のり、チーズに梅干しにセロリにとびっこ。
しらすやほおずきなんかも足しちゃって。
さて帰りにカフェラテを買って帰ろうかしら、と頭の余白を楽しんでいたところでここれさんは足を止めます。
たこを買っていません。
ここれさんは肝心なものを買い忘れることがたまにありますが、その7割くらいは帰るまでに思い出せているので、ここれさんは大して気にしていません。
ここれさんは家に帰ると存分にたこ焼きを愉しみます。
ここれさんは大ざっぱなところが目立ちますが、手先は器用なのでこういったたこ焼き作りなんかは得意です。
きれいな丸を作れますし、鉄板の真ん中と端っこで焼け具合が違うのもしっかりと頭に入れて作り上げることができます。
ここれさんはたこ焼きはなんとなく6個というのが好きなので、器に6個盛りつけます。
もちろんグラスにはシャンパンを注いで。
ここれさんはお酒のシュワシュワ弾ける音も結構好きだったりします。
たこ焼きを3つ食べ、シャンパンを2口ほど飲んだところで、これはもしかして勿体ないことをしているのではないか、とここれさんは慌てて窓を開けました。
こうすると幸せな時間を一人占めせずに窓を通じて世界のどこかのだれかにも幸せをお裾分けできるような気がするのです。
そうやってここれさんはグラスに口をつけると、たこの手を取ってこの部屋から抜け出して、わたしはあまり海へは行かないのだけどあなたとなら、なんてクサイセリフを言ってのける海辺のロマンスを想像しました。
たこ焼きがどのお店に行っても大抵8個売りで不便なのは、ここれさんにとってはなんの不自由もありません。
だってその方が、6個入りのたこ焼きと出会えたときにもっともっと感動することをここれさんは知っています。
きっとそのときにはまた、ずっとあなたを探してた、なんてクサイセリフが頭の中に浮かぶのです。
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