君に会いに行くよ

ここれさんはキャンドルを焚いてお風呂に入ります。

この時間は大事に育てることにしているので、キャンドルは9種類ほどストックしています。

なかでも一番好きなのがびゃくだんの香りです。


ひのきの香りはちょっとジジ臭いし、ラベンダーの香りはやっぱりしっくりきません。

びゃくだんが一番、ここれさんの邪魔をせず自由にさせてくれる香りです。

でもここれさんはびゃくだんが何なのかあまり分かっていません。



びゃくだん。

昔好きだった少女漫画に出てくるヒロインの恋人役のゼウスだかハデスだか、が座る豪華絢爛な椅子の名前がそんな感じじゃなかったかしら。


びゃくだん。

中学生のときにいたキラキラネームのやんちゃ兄弟、その兄のほうがそんな名前だったかも。


びゃくだん。

いえいえ、ほんのり優しくてどこか甘いこの香りは、

お菓子づくりのときレシピで見かけると「それはどこで買えるの」と突っ込みたくなる普段はぜったい買わないあの材料に違いない。


びゃくだん。

あるいは、はちみつ職人がたくさんの蜂を囲うあの木箱。あの名前に違いないわ。



ここれさんは砂時計をひっくり返すように、お風呂の中で足を組み替えます。

ここれさんが鼻歌でカバーするのは星のラブレターです。


ここれさんはキャンドルに鼻を近づけてゆっくりと香りを吸います。

これだけ落ち着く香りなので、きっと自分はびゃくだんのおくるみに包まれて生まれてきたのだとここれさんは思いました。




びゃく-だん【白檀】

ビャクダン科の常緑小高木。

インド・東南アジアで産まれる。

材は黄色がかった白色で線香や香料などに使われる。

花言葉は「平静」「沈着」。

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