第9話 #9 20XX年8月24日 陸軍総隊司令部と辞令

 2日後の朝、○八○○国歌がスピーカーから放送されるのを聞きながら(室内にいるので『業務』を続けてよいことになっている)朝食を済ませ軍服に着替え約1週間近く過ごした病室を出、退院手続きをする。

 病院ロビーには既に軍曹が3day Assault Pack一つを抱えて待合室のイスに座っていた。

「軍曹、早いな!」

「少尉おはようございます! あれ?少尉は手ぶらですか?」

「ああ、私物は勝田基地に置いたままだし、迎撃戦に持参したものは認識票以外全部焼けてしまったからな」

「そ、そうですね……あ、少尉、昨夜は髪を完全に乾かさないでお休みになられましたね。かなりヘアスタイルが崩れてらっしゃいます。ただいまブラッシングをして差し上げ、」

「おいおい、さすがにここではまずいだろう。軍曹はオレのお姉さんかい!」一昨日病室で軍曹にブラッシングしてもらったのを思い出すも、規律もあるし外聞があるのでやめさせる。

「はい……わたし、少尉とおなじくらいの背格好の妹がおりまして、つい……」

と平然と言うが、「あ〜軍曹には妹がいるんだな。オレは長男で一人っ子なんだ……今までこんなことは話したことがなかったな」

「そ、そうですね……」


 そこに「おはよう、少尉、軍曹!」と大佐がやってくる。

「おはようございます大佐!」とそろって敬礼。

「ん?少尉なんだその髪は。いくら義体とはいえ女性なんだから少しは身なりに気をつけろ……そうだ、軍曹。少尉の髪をなんとかしてやれ」返礼しつつ言う。

「はい!」軍曹はAssault Packからヘアブラシを取り出し嬉々としてオレの髪をブラッシングし始める。

「い、痛っ!もう少し優しくブラッシングしろ!」

「はい! ですがこううねっていては……」

 側(はた)から見ると年齢差がある上官と部下がイチャコラして微笑ましくはあるが、やはり恥ずかしい……それに身なりといい話し言葉といい、これは少尉には軍曹がついていないとイカンなと大佐は思ったそうだ。


 ○九○○、大佐と軍曹、オレの三人を乗せたV-22が朝霞基地・陸軍総隊司令部に向かい筑波大学病院へリポートを離陸。

 筑波大学から朝霞基地までは約54Km、ヘリモードでも20分ほどの距離だが呼び出されているので少し早めに到着するとイケガミ大佐の意向だ。

 前回これに乗った時は早朝でしかも死にかけていたので、記憶も無いから実質初搭乗だ。

「おー軍曹、見てみろ!早いな!」

「少尉殿、子供ですか!」

「迎撃戦でこれ(V-22)が使えてたらよかったのにな!輸送車で移動したのが昔のようだ!」

 景色やスピードを楽しむ間もなくV-22は着陸体制に入った。


 ○九三○には朝霞基地に到着。

 出迎えた下士官に案内され、大佐以下三人で陸軍総隊司令部に向かう。

「司令官殿! イケガミ大佐以下三名、お連れいたしました」下士官が司令官室のドアをノックし入室許可を得る。

「よし、入れ」中から応えがありドアを開ける。

「失礼します。東部方面隊勝田基地所属、イケガミ大佐入ります」

「同じくタカオカ少尉入ります」

「同じくカワカミ一等軍曹入ります」

「三人ともよく来てくれた。ま、そこに掛けたまえ」

「失礼いたします!」と三人とも司令官がいる机の前の応接セットに座る。


 下士官が持ち場に戻り、四人だけになったので大佐が口を開く。

「アキヤマ中将、お久しぶりです」

「そうだな、第15次北茨城迎撃戦以来か? 勝田基地は北の守りの要だから苦労するだろう?」

「はい、先日も『北』の奴らがほんの1大隊で侵攻してきまして」

「ああ。で、約50人が死傷した」

「申し訳ありません」とイケガミ大佐。

「いや、戦闘に犠牲はつきものだが、その代わり切り札ともなる有力な情報を得た……そうだろう?」

「『1K17』の件ですね?」と大佐。

「そうだ。ドローンが落下したときにタカオカ少尉が『1K17』と言っていたと、複数の生存者の証言があった」とオレの方を見ながら言うが、『少女』姿の義体を見ても特に何の反応もない……ナカジマ中尉が言っていた『軍上層部』とはやはり日本州では中将と本国の統合参謀本部だろうな。

 そして『1K17』、オレそんなこと言っただろうか? 記憶が曖昧だ……。

「当日同刻の偵察衛星画像を調査したところ、T-80の砲塔が1K17に改造された2両が確認された。奴らは高出力のレーザー兵器を完成させている。それに対抗すべく我が軍も開発を進めていた1K17を上回る高出力・長距離のマイクロ波兵器を完成させた」

「そうですね」と大佐。

「誘爆で熱傷指数が50を超える火傷を負った少尉は全身『完全義体』化、軍曹も左腕を失い義手が必要となった。偶発とは言え多数の死傷者が出たことは遺憾である。これは敵が開発を中断していたとされる1K17を完成させ実戦配備していることを見抜けなかったことを受け、計画していた仮称『特殊部隊』を正式に創設することになった。そして本日付けで君たちに辞令を発令する」


 三人とも席を立ち上がり直立不動の姿勢をとる。

「イケガミ大佐を仮称『特殊部隊』司令に任命する」

「イケガミ、拝命します!」と敬礼。

「タカオカ少尉を大尉、仮称『特殊部隊』隊長に任命する」

「タカオカ大尉、拝命します!」敬礼をするが……え、大尉?それって二階級特進?

「カワカミ一等軍曹を曹長、仮称『特殊部隊』副隊長に任命する」

「カワカミ曹長、拝命します!」同じく敬礼をする。


 カワカミ曹長は順当だが……そんなオレの顔色を見てニヤついて司令官が「タカオカ大尉、なにか疑問でも?」と聞いてくる。

「はい、中将殿。何故自分は二階級特進なのでありますか?」

「ああ、それはこれから順を追って説明する」

 そして中将は手元の電話で一言二言何やら指示を出す。


 待っている間中将はオレの方を向き、「そういえばキミの大学の卒業論文、たしか『日本州周辺諸国に対する戦略防衛論』だったかな? それを読ませてもらった。敵国のレーザー兵器についても記載されていたがその頃から何か思うところがあったのか?」

「はい、大尉殿。核兵器はもはや飽和状態で一度使用されれば第三次世界大戦となるのは必須であり全人類の滅亡につながります。核には核以外の手段で対抗かつそれを無効化するしか手段はなく、これは日本州の技術と資源で開発可能なのはレーザー兵器かと考察いたしました。その記憶がありましたので、今回ドローンの不審な動きから『1K17』を思い出しました」と一応あいまいながらもあのとき『1K17』と言ったのは事実らしいのでそう答えた。

「なるほどな。興味深い。そしてそれが今現実となっている。キミはなかなか面白い男……おっと今は女性だな、失礼した」

「とんでもありません。義体は女性でもBrainは男であります!」

「ははは、そうだったな」と中将。

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