第8話 #8 20XX年8月22日 射撃訓練と新たな命令

 少し興奮していたらしく明朝は○六○○前に起床。

 寝不足ぎみだが、短時間睡眠は訓練で慣れている。それよりも今日からは射撃訓練だ。しかも軍曹と一緒だ。


 ○八○○、国旗掲揚後運ばれてきた朝食を平らげ、昨夜看護師が持ってきてくれたグリーンの戦闘服(ACU :Army Combat Uniform)に着替える。

しかしよくもまぁこんな小さな軍服があったもんだ。子供用か?と思いながらも袖を通し、待機。


 ○九○○、軍医とカワカミ軍曹が入室してくる。軍曹は心なしか顔を赤らめている。

「少尉、お待ちかねの射撃訓練と軍曹だ」と冗談とも本気とも取れない口調で軍医が言うので、「はい、その両方とも待ちかねておりました!」と切り返す。

「あははは! 軍曹、貴様は果報者だな!こんなに部下思いの上官を持って!」

「はい!光栄であります!中尉殿!」と敬礼する。

「まあいい。 両名ともこれから敷地内地下の訓練場で射撃訓練を行う。地下3階だ」

「承知いたしました!」二人揃って敬礼し、エレベーターで地下3階に向かう。


「これで約束した射撃指導を果たすことができるな」

「はい、少尉ありがとうございます! ――あの、義体はいかがですか? その……なんというか『女性』としての生活ですとか……」

「あ? ああ。まぁやっと慣れたがこの長髪だ。洗髪も乾かすのも一苦労だ」

「そ、そっちですか?」

「他に何があると言うんだ?」

「い、いえ。なんでもありません。失礼いたしました。少尉は義体化され女性の姿になっても、お話し方が以前と変わらず安心いたしました」

「そうか」話はそれきりになり、射撃場に到着する。


 受付の伍長から「官姓名を願います」と敬礼される。

それぞれ「陸軍東部方面隊勝田基地所属、タカオカ少尉」「同じく陸軍東部方面隊勝田基地所属、カワカミ軍曹であります」とこちらも答礼と共に伝える。

 こんな少女の姿で少尉と名乗っても怪訝な顔ひとつされず「伺っております。ではこちらへ」と案内されイヤーマフを渡される。


 訓練はあまり実践的とは言えないが、固定した人型の標的に射撃を行う。

銃はSIG SAUER M18、アメリカ軍制式軍用拳銃だ。

50m先の標的を狙うと――視野内にレティクルが表示される。これが義眼(視覚センサー)の威力か!

「おお!凄いぞ!」と思わず声に出る。

「いかがされましたか?」と軍曹が聞いてくるので、「標的を狙うと視野内にレティクルが表示されるんだ!それもズーム可能でな!」

「べ、便利ですね……さすが義体……」


 そして1発、2発と標的を撃つ。

 ボックスマガジンには21発入っていたが、10発で撃つのをやめた。

 何故か?10発とも全てターゲットのど真ん中「5X」に命中していたからだ。

 ちなみに軍曹は21発中「5X」は18発だった。なかなかの腕前だ。

「少尉は射撃が得意な上に義体化のおかげで最強ですね!」

「自分もしばらく射撃練習をしていなかったがこれほどとは思ってなかった……」


 今度はM16A3を試すことにし、場所を移動する。こちらの標的は250m先にある。

「スナイパーを目指すならまずはこのM16A3に慣れておけ。知ってるとは思うが重量は3,350gと軽めだが、有効射程は最大500mでフルオートモデルだ。これなら近距離でもアサルトライフルとしても使える。実戦ではハンドガンとアサルトライフルどちらか一つと言われたら装弾数が最大30発、命中率、発射速度からみてM16A3を選べ」

「はい、少尉!」

「では先に10発セミオートで撃て。次に10発フルオートで。落ち着いて撃てば当たる」

「はい!」

 構えて10発セミオートで撃つ――結果は「5X」は8発。次にフルオートで10発。今度は「5X」は9発。オレの義眼で確認する。

「ま、あとは訓練次第だな!」

「はい!」

 次はオレがM16A3を構える。3kgく感じられる。これも義体化のおかげか。

 今回も全弾「5X」だったのでセミオート5発、フルオートで5発で終わらせた。

「少尉凄いです!」(少尉凄い、凄すぎる!でも遠い人になってしまいそうです……)


「いや〜素晴らしい! 義体化前から射撃の腕前はかなり凄いと聞いてはいたが、これほどとは! それに軍曹もなかなかなものだ」と背後から拍手とともに声がした。

 振り返るとそこにはイケガミ連隊長(大佐)が立っていた。

 敬礼をしつつ「大佐殿!いつからいらっしゃったんですか!」と思わず聞いてしまう。

 軍曹も突然の出来事で声も出ず敬礼だけをする。

「少尉が義体化後、初射撃訓練をすると聞いたので最初から見させてもらっていた」

「一声お声をかけていただければ……」

「それでは見学……ちがうな、視察にはならんだろう?」

「そうでありますが……」

「それより両名に司令部より命令が下っている!」

「はっ!」軍曹と共に敬礼。

「両名は明後日退院後、一○○○に朝霞基地に向かうよう命令が出ている」

 朝霞基地――陸軍総隊司令部があるところだ。

「総隊司令部でありますか?」

「そうだ。本来なら命令書だけで済むのだが今回はわたしも同行する」


 陸軍上層部の『特殊部隊』編成計画、『完全義体』の開発。

 全身に火傷を負い救命困難な状態で全身義体化でしか救えないオレがいた。

 そしてプロトタイプの『完全義体』に脳と脊髄の中枢神経系を移植した。

 負傷したのはオレだったこと以外はすべて計画通りだったのだろう。

 ――が、軍曹までとは一体?

 明後日陸軍総隊司令部に行けば全てがわかるだろう。


 久々に軍曹に会ったので射撃訓練後は軍曹と病室で、迎撃戦やら総隊司令部、義体化の話をしているうちに、朝話した洗髪とドライヤーがうまくできない話になり、「では少佐、義体とはいえ『女性』なんですからわたしがキレイにしてさしあげます……」と病室のバスルームでシャンプーをしてもらうことになった。

「あれ、少尉殿、ブラジャーはお付けになってないのですか?」と、軍服を脱いでいるときに軍曹。

「ああ、なんというか小さいし少々すれるが義体に傷がつくわけではないからシャツさえあれば……それになんというか身体は『女性』だから付けなければいけないとは思うんだが……『脳』は男だからな、そのなんというか恥ずかしいもんだ」

「そ、そうですね。でも『女性』としてできればお付けになられた方が……」

「ん。わかった……じゃ、付け方がわからないから着替えのときに付けてくれ」

「はい、少尉」

 軍曹は遠慮してかブラとパンツだけになったが濡れて透けてしまい、男目線でつい見てしまう。やはり胸もあるしいいスタイルだ。


 シャワールームから出、軍曹は濡れた下着を脱ぎバスタオル姿になる。

 オレはドライヤーで乾かしてもらい、さらにブラッシングをしてもらう。

 軍曹は「キレイなブロンドです……ブラッシングでより美しくなりますよ、少尉」などと言いながら――。

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