第5話 西暦二〇六九年八月十五日 第二〇次北茨城迎撃戦の惨事

 偵察衛星とドローンのデータによると、敵軍にはまだ動きはない。


 秘匿回線で各大隊長・中隊長・小隊長に展開と待機の指示が出たので、軍曹に指示を出す。

「○四○○までに展開後、指示があるまで待機。敵が緩衝地帯を超えてきた場合、戦車の砲撃が開始される。第三小隊はこの場を動かず、越境してきた敵を迎撃する」と小隊に指示を出すと、一斉に無言で答礼が返ってきた。


「軍曹、意見は?」と、軍曹の意見は新人少尉の意見より重んじられると聞いているので、軍曹に確認する。

「はい、少尉殿。正しい戦術だと思います。あと、M113は敵戦車の標的になりやすいので後方に回し、ブローニングM2重機関銃は予備として外して携行し、攻撃があるまでこちらからは打って出ない。いかがでしょうか?」

「そうだな。いいだろう。」


「承知しました、少尉殿! おい、クソ虫共! 聞いたか? 我々第三小隊はこの場を動かず、敵の迎撃に徹する!」

「イエス、マム!」 一斉に敬礼。やっぱり現役軍曹の方が兵士の掌握に長けているな。


 敵に動きがあったのは、それから約一時間後のことだった。停止地点から南下を開始し、緩衝地帯手前五キロで進軍を停止。お互い約一〇キロの距離を保ち、対峙する。


 両軍とも有効射程一〇キロの火器を保有していないため、数発撃ち合って撤収かと思っていた矢先、上空をホバリングしていた偵察用ドローンが不穏な動きを見せる。

 戦闘中に上空を見上げることなど普段はしないだろうが、先ほどから聞こえていたドローンのエンジン音が突然消えたので、思わず見上げると……ドローンが地上からの制御を失い、落下してくるのが見えた。


「あれは……まさか『1K17』でドローンの制御が無力化されたのか? 軍曹! 第三小隊に警戒を!」と命令の途中、三〇メートル後方に駐車していたトレーラーに旧式だがハイパワーのツインロータリーエンジンを搭載したドローンが落下し、爆発炎上する。


 トレーラーにはM252迫撃砲用八一ミリ迫撃砲弾をはじめとする多数の弾薬が積まれており、次々に誘爆が起こった。

 オレは爆風に吹き飛ばされながら、咄嗟に左にいた軍曹を庇おうとした。全身が焼けるような感覚を覚え、地面に叩きつけられて意識を失った。


 ソ連軍は結果を見届けたかのように、一発の砲弾を発射することもなく、緩衝地帯を更に南下することもなく、北方に即時撤収していった。

 それに対し、第二〇次北茨城迎撃軍は、敵が緩衝地帯を越えてこなかったため反撃も行えず、犠牲者の捜索と救護に追われていた。

 被害は、ドローン落下地点付近にいた第三小隊三十人を中心に、五人が死亡し、四十数人が重軽傷を負った。約五十人の犠牲者を出す結果となった。


 ドローンは迫撃砲弾やその他の弾薬の爆発により完全に破壊され、落下の原因は明確には判明しなかった。しかし、その後、タカオカ少尉が言ったとされる「1K17」に関する調査が進められ、偵察衛星の画像には、T-80系戦車一五〇両のうち二両に、明らかに形状が通常とは異なる砲塔が確認された。


 その車両は、最大一〇キロの有効射程を持つとされるマルチビーム方式多連装レーザー照射装置1K17をT-80系に搭載しており、高出力レーザー光をドローンに照射することによって、制御装置を損傷させ、無力化したと結論づけられた。

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士官学校卒のエリート少尉、義体化で美少女ボディになりました。 中島しのぶ @Shinobu_Nakajima

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