第6話 不便なんだから仕方がない
「君たちが学生らしからぬ関係だという噂を聞いたんだが」何を言っているんだこいつ。ここは校長室でこれを言ったのが教頭。
僕が怪我をした翌日に学校を代表する者が言うセリフがそれか、他に言うことあるだろう。
こっちは殴られて怪我をしたんだ、その話はどうなっている。
「ふん、だから黙って俺の女になっとけばよかったんだ」それと、何故コイツがここに居るんだ。
校長室には教頭と校長それと僕と美香。ここまではいい、だが僕を殴ったバカ息子と彼が連れてきた私設秘書と名乗った男も同席している。
話にならない。
というか僕と美香はこの部屋に入ってきてから一言も発していない。これは小野さんと事前に打ち合わせていた。その注意を受けた時は大袈裟と感じたが僕の考えが甘かった。
「ここは一つ穏便にいこうじゃないか」と残り3ヶ月で定年になる校長。教頭が後釜に収まるのは既定路線とも聞いた。
「校長先生のやり方では校内の風紀をまもれません。ここは私に任せてください、この件を問題なく処理してみせましょう」これ絶対ダメなやつだろう。
「このままでは2人共退学になってしまいますよ。蜜里君は残る事も可能かもしれませんが」
教頭は後半声色を変え美香を見た。バカ息子は腕を組み舐めるような視線を彼女に送っている、
「そんな事より、黒沢君が殴られ階段から落とされたのはどうなっているのですか」美香が我慢できずに言い返した。
「聞き捨てなりませんね、少年が勝手に階段から転げ落ちたのを何人も目撃しています。何故かぼっちゃんに罪をなすりつけようとしていると噂を聞きました。あまりいい加減な事を言うものではありませんよ」
彼の名前は加部だとさっき貰った名刺に書いてあった。
「ご心配なく加部様。不純交際をしている不良どもと藤田先生のご子息、どちらの話を信じるのか誰の目にも明らかですよ。理事長にも話は通してありますのでご心配なく」
教頭はそう言うと書類をテーブルの上に出す、謝罪文と自主退学の申請書と書いてある。
「署名しなさい」
この三文芝居なんなんだ、今の時代にありえない。いや、どんな昔でも成立しない。
「何か言ったらどうだ。今更こわくなったのか」あからさまなどす声で私設秘書がセリフを吐く。キミの出自がわかるな。
「呆れて何も言う気が起きないだけです」これは僕の本当の気持ちだ。
「何だと、バカにするのもいい加減にしろ」と私設秘書が声を大きくした瞬間。
「はい、そこまでです」パチパチと手を叩いて小野さんが入ってきた。
「誰だお前は。誰も入れるなと言っていたはずだ」今度は教頭の声がう入り口に向けて大きくなる。
小野さん冷静に「私は黒沢家と顧問弁護の契約をしている弁護士事務所のものです」と名刺を配り始めた。
配られたみんながその名刺をみて「弁護士」と名刺と小野さんを見比べている。
「弁護士に用は無い出て行って下さい」
「黒沢家専属と言いました、こちらに来れないご両親に変わりにおうかがいしております。それとも弁護士がいてはまずい事でも」
「学校では個人のプライベートな事を扱っています。勝手に弁護士が入っていい場所じゃない」
「黒沢様の了承を得ておりますので、ご心配なく」彼女がだめなら私設秘書はもっとダメだ。
小野さんテーブルの上に置かれた書類を見ると
「未成年にこのような書類の署名を求めたのですか。保護者に連絡もせず」と校長に迫る。
「い、いや、そうじゃなくてですね」さっきから校長は具体的な事は何もいっていない。
「やはり違いましたか、そうですよね安心しました。法的にも問題ありますからね、こんなやり方」小野さんがにっこり、何枚も上手だ。
「それと1つ確認なのですが、当校には男女の生徒が同じアパートやマンションに住むのを禁止してる校則が有るのでしょうか」今度は教頭に向けてだ。
「ない」
「そうですよね、そんな校則が今どき有ったら確実に炎上するでしょうから。下手をすると学校無くなっちゃいますよね」
「ないが、不適切な男女。。。」
「不適切ですか。それはどのような」小野さん最後まで言わせない。
「若者を退学させようとしてるんです。確かな証拠があるのですよね」
「そんなの調べればすぐにわかる」
「と言う事は今はないんですね。なぜ今このような事をされているのですか」
今度はバカ息子の方を向いて。
「以前この高校では妊娠した女子生徒を退学にしましたが、相手の男子学生はそのまま在籍しておりますよね。先生の言う不適切とは具体的に何を言われているのですか」
「姉ちゃん威勢がいいな。だがその辺でやめといたほうがいいぞ」私設秘書の口調は完全に向こうの人のものだ。
「そういう風に言えば私が怯えるとでも、そのような方々とは仕事柄面識がございます、それを怖がる自分ではありません。それに加部様がその筋の人でない事はすでに調査済みです虚勢をはる必要はございません」
全員が黙ったタイミングで小野さんが「帰ってもよろしいですか」と書類に視線を送る。
結局これは僕に署名させるための茶番、もう意味は無い。
「この事は先生にきちんとご報告する」教頭の言う先生とはバカ息子の父親かな。
「どうぞご自由に」と小野さんが返す。彼女は彼を『たかが』と言っていた。
「君たちもこれでいいんだな」教頭は最後に僕達に念押し。ご苦労な事です。
「問題ございません」と僕が応えて校長室を出た。
「面白かった」車が走り出すと小野さんの声がハイテンション。
「こんなの一生に一度でしょうね。弁護士なんて実際はかなり地味、そもそも私に回ってくるのは書類整理か地道な調査ですからね」
そうなんだろうな。だけど今回はかなりレアケースだとも思う。
ーーーーーー
事件から数日経った。最初少し緊張感が有ったが何も起きない。
気が抜けたらしい「風呂に入りたい」ボソリと何の考えもなく口から出た。
体は拭いているがさっぱりしたい。食後に2人でまったりネッド動画を眺めていた時だ。本当になにも考えていなかった。
返事を期待して言ったわけでは無かったが「ったく」と美香が立ち上がり。キッチンへ向かう。
ゴミ袋を持ってくると、その中に僕の足をギブスごと入れた。そして入り口を絞りテープでぐるぐる巻きにする。
お!。これで風呂入れる。
美香はガッチリ足に防水処理をすると、今度は僕の部屋に躊躇なく入る。一応住人の許可は取って欲しい。
部屋から出てくると「はい」と車椅子に座る僕に何か投げてきた。
「お風呂で転ばれたら大変だから、それ履いて」海パンだった。
確かに足元が不安だ。コケても僕が裸だと美香は助けにもこれない。了解。
脱衣所で苦労して海パンに着替えたタイミングで「ちゃんと水着きた」と美香が声をかけてきた。
焦って「おぉ」と返事をすると脱衣所のドアが開く。
「え!」
美香も水着を着ている、しかもビキニ。え!?
「転ばれたら困るって言ったでしょう。ほら」と僕の手を引いた。
目が離せない。
白いビキニなんてほぼ下着だよ。それに布の面積が少ない!
ここはスクール水着でいいじゃないか。いやあれはあれで。何を考えてるだ自分。大きいと言うわけではないが十分なボリュームが有るお胸。お腹に余計な肉がないのはさすが中学でバスケをしてただけの事はある。でも若い少女特有のぱつんぱつんとした肉感がよく。ダメダメだ色々なものが頭の中を駆け回る。そのメガネ可愛いね。だから違うって。
こっちの状況などおかまいなく「ちゃんと立って。肩捕まっていいから」そんなの無理だって。
ぐずぐずしてたら今度は僕の脇の下に手を回してきた。抱き抱えて立たせようと言うのか。当たるって、当たる!
「ふにゃふにゃしないちゃんと立って」わーった、立つ、立つから。
そっちは立つな。
何とか耐えた。
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