第2話 過激な親

広めのリビングで2人はお互いを見ながら立ち尽くして数分後、彼女が先に立ち直った。


 彼女は室内を探し周り自分の部屋を見つけ中に入って行った。


 僕の部屋も有ったので、引きこもった。




 部屋には机と本棚だけがあり、他には段ボールが数箱積まれていた。


 箱の中には新品の衣類などが入っている。


 着心地が良さそうなスエットを見つけ着替えていると、ドアをノックされた。


「ちょっといい」




 さてどうなるんだ。




 リビングに戻ると美香は制服のままだった。メガネだけ掛けている、彼女は家ではメガネ派だ。


 テーブルに座り僕を待っていた、彼女の前に大人しく座る。




「切り替えていきましょう。元々同じ部屋にされると思ってたんだから今更慌てる必要ないのよ」


 僕もそう思ってたけど一度別々の部屋が用意されていると納得したじゃない。


 若い男女が同じ所に住むのはマズイよなって、からのこれは余計に意識してしまう。気まずい。




「一緒に住むために最低限のルールを決めましょう」美香は僕の感情を考慮せず話を進めた。


 今まで頻繁に行き来していたが一緒に住んでいたわけじゃない、彼女の言い分は正しい。




「まず1つ目、私に変な事はしない」


 やはりそれが一番だよな。


「しないよ。もう美香のあんな顔見たくない」


「カー君は何が変な事か判ってないかもしれないから、私が止めてと言ったら絶対にそれ以上の事はしないで」


 信用がない。


「はい。絶対にしません」彼女の顔を見れない、下を向く。




「次に食事、掃除、洗濯全部私がします。やったやらないで揉めるのも嫌なので」


「僕も少しはできるけど」


「料理は出来ないよね。私の下着を洗いたい?それとも女子部屋のゴミ箱の中身に興味がある?」


 何も言い返せません、せめて自分の部屋は綺麗にしよう。




「買い物も私がします。生活費用のカード預かってるので、自分用のは有るよね」


「小遣い用のは持ってる。2人用ので僕が欲しがる物なんてあるのかな」


「有ったら言って」




「3つ目、友達をここに呼ぶのは禁止」


 それは言われなくとも。


「ただしあさひは例外。彼女は私達の関係を知ってるから」


 あさひさんか、彼女は美香の中学からの親友。美香の家にも何度か来ていて、そこで僕を見かけている。


 彼女には美香が時間を掛けて2人の関係を説明し理解してもらってる。美香が九州に行かなくて済んだのも喜んでいたし、その後の経緯も知っている。


「了解」多少不公平な気もするが。




「それじゃ私は夕食の材料買ってくる」と立ち上がった。


「これで終わり?」もっと色々とあるんじゃないのか。




「今更、普通同居を始める人が起こすようなトラブルは、私達には起きないと思う。カー君は私にイライラするような事なにか有る?」


「ないです」




 -----




「ご馳走様、美味しかったです」


「今日は特別。カー君の好きなもの並べたからね、色々ありすぎて献立考えるの面倒だった」


 美香の料理は普通に美味い、そう言えばここ1年ほどはおばさんじゃなく美香の料理を食べていた。




「そうだ、今度の休みに私服を買ってくる。カー君の分も買うから何かリクエスト有る?」


「服なら段ボールにいくつか有ったよ、まだ整理してないから全部把握してないけど」


「私は見た」さすが女の子。


「そのスエット私にも色違いである、多分全部ペアルックだと思う。あの親なら有り得る」


 母さん達なら有り得るか!


「室内着は誰にも見られないからいいけど、外で着るには趣味が合わない」


「面倒くさい、お任せします。僕はオシャレがわからない」


「オーケー、適当に見繕う」




 食器を下げて自分の分だけでも洗おうとすると


「食洗機が有るの気づいてないの、私がやっとく」


 こんなところでも家事スキルがない事を露呈する。早々に自分の部屋に引きこもり、荷物を整理し始めた。




 部屋に戻り、段ボールを開けてゆく。リクエストしていたゲーム機とPCも有る。


 ゲームは美香もするのでリビングのテレビに繋ぐ予定。PCのセッティングをしていると


「なにこれー」という悲鳴みたいな声が隣から聞こえた。


 慌てて隣の部屋に入る。




 そこに美香がいた、大きなベットの向こう側に。


「なんでそこからカー君が来るの」


 何故と言われても


「こっち僕の部屋だから」


「...」


 美香の視線が2人の間にある大きなベッドに向けられ


「こっちも私の部屋」


 向こう側は彼女の部屋らしい、そういえはそんな配置だったかも。




 この部屋の入り口は2つ、お互いの部屋からしか入れない。そこに大きなベッド。


「私の部屋にベッド無かった。カー君の部屋は」


 彼女には有って欲しいと微かな希望があったかもしれないが、残念ながら


「ない」




 2人は漫画のように膝から崩れ落ちた。


「どこから突っ込めばいいんだ」


「いくらなんでも、これはやりすぎよ」


 声が重なる。




 許容範囲を超えている、急いで親に連絡した。


 国内移動だったおばさんに連絡がついた、返事は


『その部屋前に住んでた夫婦が2つの部屋をリフォームしてたの、変則的な部屋だったから安かったし2人にはちょうどいいかなと、千尋さんとも意見が合って決めました』


 僕たちの意見は!


 少なくとも僕は聞かれた事ないぞ、任せっきりだったのも悪かったけど。


 いやリフォームや同居の件はまだいい。元々そうなるんだろうと思ってたのもあるし、ギリギリ飲み込める。


 だが寝室一緒なのは親としてどうなんだ。特に娘の親として男と一緒のベッドを用意するなんて、何考えてるんだよ。




 そんな内容の追伸をすると、あっさり


『その大きなベッドバラせないから部屋から出せなかったの、でも寝具は新しくしたから安心して。それに2人なら大丈夫かと思って、ダメだった時用に昼間プレゼント渡してる』


 信じられないような返事が来た。




「自分の親がラスボスだった」


「状況に気持ちが追いついていない」


 二人とも疲労が激しいが、ベッドで休む事もできない。リビングに戻る。




 そのテーブルの上に昼間親に美香が渡された物が置いてある。今となっては開封するのがためらわれる物だ。


「先にパパ達のから開ける」母さん達のプレゼントが危険だと美香も感じ取ったのだろう。


 箱の中から出てきたのはスタンガン、僕に襲われた時はこれを使えと。


 まともなような気がするが、何か違うとも思う。


「枕元に置いとく」と美香。僕としては「あぁ」と言うしかない




 母さん達からのプレゼントの開封中に、美香がゴンと音がするほどに頭をテーブルに打ち付けた。


 開封が包み紙半分で止まっている。それを拾い作業を続ける。


 軽い。持った時点で中身は想像できたが、まさかと頭で否定し続けた。




 出てきたそれは避妊具、通称ゴムと言われるもの。


 それと印刷された画像が1枚添えて合った。裏には2ヶ月前の日付と『いまさら』と『世間体』の文字。




 写真には僕のベッドに2人が寝ている。記憶には無いが心当たりはある。




 幸おばさんは極度の怖がりだ、家でホラーなど絶対に再生させない。


 美香も怖がりな体質は受け継いでいるのに、ホラーそのものは好きらしい。


 そんな彼女がホラーを見れるのは、おばさんが仕事で家を空けている時だ。仕事はおじさんも一緒なので家には誰もいない。


 留守はホラーを見るにはいいが、その夜1人なのには耐えられない。




 僕は一度寝ると朝まで気絶したように眠る、途中何をされてもほとんど起きないらしい。


 だが、ほとんどであって絶対じゃない。夜中に背中が暖かいことが何度かあった。


 軽く覚醒した時なので夢だと思っていた。朝には何事もなく1人だし。


 ただ、僕のマンションの鍵は彼女も持っていた。


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