「学校では話しかけてこないで」と言ってきた幼馴染みと同居する事になりました。
野紫
第1話 入学式当日
「学校では話しかけてこないで」
誠也おじさん達がチェックアウトの手続きをしている間、ロビーでボーッとしてる僕にそう言って来たのは幼馴染の美香。
「あぁわかってる」僕は従うしかない。
彼女は返事も待たずにおじさんたちのいるカウンターへ向かって歩いていた。
美香は生まれた病院まで同じの幼馴染、7時間だけ彼女が早い。
元々父さん達が小学校から大学まで一緒の幼馴染、誠也おじさんは父さんより歳が1つ下。
大学で疎遠になっていたが、産婦人科で数年ぶりに2人は再会したのだ。
2人が別れる時誠也おじさんは父さんに酷い事をしたと後悔していた。それが偶然の再会でおじさんは父さんにその場で土下座したらしい。
その後、母さん達を含めた4人で何が話し合われたか知らないが、僕と美香は生まれる前からくっつく事を期待されている。
許嫁というのだろうか?
そうハッキリと言われてはいないが、今考えると子供の頃からおかしな関係だった。
小6になっても一緒に風呂に入っていたし、たまに同じベットで寝かされていた。
双方の家どちらでもだ。小さい頃からいつも2人一緒なのを疑問に思わなかった。
親が率先してそうしてるのだ、おかしいと気づくはずがない。
その当たり前が小6の三学期に変わった。2週間ほど美香が僕を避けるようになり、会えない日々が続いた。
当時僕はどう考えていたか思い出せない。ただすごく寂しく感じていたのは覚えている。
そして2週間後、おじさん達が出張で夜いないので泊まりにきた美香に僕は酷い事をした。
久しぶり会えた嬉しさで抱きつき、キス、そして膨らみかけた胸に触ったのだ。
投げ出されて見上げた美香は泣いていた。
何か叫んでいたがそれは記憶にない、ただ彼女のあの泣顔だけはハッキリと覚えている。
罰が下り僕は中学入試を失敗し、美香とは別の中学に入学する事になる。
これで僕らの縁は切れるはずだった。
中1になってしばらくして父さんが海外へ行かなければならい話が出た。
父さんは会社を経営していてその関係で数年現地へ行かなければならないらしい。
会社の経営は出来ても生活能力の全くない父さんに単身赴任の選択はあり得ない、母さんも一緒に行く。
ならば僕も行くはずだったが、誠也おじさん達が僕の面倒を見ると父さんに申し出た。
おじさん達は道路を挟んで向かいのアパートに住んでいた。
そこへ僕はご飯を食べに通う事になる。
無論そこには美香がいる。彼女は僕のした事をおじさん達には黙っていてくれたみたいだった。
だが昔の2人に戻れるはずもなく、僕は彼女が嫌な顔をしないよう過ごした。あの泣き顔は見たく無い。
美香に言われた事は可能な限り従う、こうして今の2人の関係が出来上がる。
春、今度は同じ高校に合格。
父さんたちももうすぐ戻る予定だ。
だが、幸おばさんのお父さん、美香のおじいさんが突然倒れた。幸い死ななかったが1人で生活するのが難しくなった。
おじいちゃんは九州で工芸関係の工房のような会社を経営していた。従業員も10人以上働いているし、数年先までの受注があり会社は潰せない。
跡取りになれる者もいないため、色々話し合いがもたれた結果幸おばさんが継ぐ事になる。
誠也おじさんと幸おばさんはフリーでデザイン関係の仕事をしていた。日本中駆け回っていたし、どこでもできると言えばできる。
結果幸おばさんは会社に部署を新設して誠也おじさんを入社させた。2人で九州へ移転する事になる。
高校は合格したばかり、今度は美香が残る事になった。それが2週間前。
僕の住んでいたマンションは父さん達が事務所に使っていた部屋があり広い、その一角を彼女が使う予定。
誠也おじさん達は早々にアパートを引き払い入学式まで僕のマンションで娘の生活の準備を始めていた。
今度は僕の部屋の1階下で火が出た。幸い死者は出なかったがマンションには住めなくなった。
もう笑うしかない。
こうして僕らはホテル暮らしになる。
何とか新しく僕らが住むとこは見つけられたが、生活に必要なものが揃うのが今日入学式当日の午前中だ。
本当にギリギリ。全部おじさん達が手配してくれた。
ホテルには父さんも母さんもいない。
本当は2人共もっと早く来る予定だったのに父さんの仕事が伸びに伸び、結局母さんだけが入学式のためだけに戻ってくる。
今頃日本についているだろう。
ーーーーー
タクシーで高校までおじさん達と一緒だったが、入学生と父母に案内で分けられた瞬間1人になってしまった。
まあ美香は僕と一緒の所を誰にも見られたく無かったのだろう。
この高校には僕の顔を知っている者も多い、多くの生徒が美香と同じ小中出身のはず。だから同じ小学校の僕も知っている。
何故、校長の挨拶は眠くなるのだろう。この高校の校長はいい先生だ「校長の長い話は嫌われるから」と自ら言って実際短めだった。
なのに眠くなる。校長になるために特殊な訓練を受けてもいるのか。
新入生代表として当然のように美香が壇上に上がり答辞を読んでいる。
受験トップだったのだろう、今更驚かない。
「あれが蜜里さんか、綺麗〜」とか「かっこいい」などの声が聞こえる。
美香はこの辺では有名人だ、僕の中学にもファンがいた。
彼らに僕が彼女の家で一緒にご飯を食べていたとバレたらどうなっていたか、想像するだけで怖い。
怖い事には近づきたくないから、今後もバレずにすごしたい。
眠かったせいか入学式は早々に終わって、自分の教室へ。見知った顔が幾つかある。
その見知った1人が「よぉ、お前プーだよな」と近寄ってきた。
丸川幹、小学校時代の友人だ。そしてプーは僕の小学校の頃のあだ名だ。
「だよなって、何だよ」
「だってさー、お前小学校の頃もっと丸かったよな。俺、座席表2度見した」と笑われた。
確かに小学校の頃はコロコロしていた。
美香は中学で運動部に入った。体力作りのためのランニングに「暗い中女の子を1人走らせる気なの」と付き合わされた。
朝でなかったのは助かった、いや早朝なんて起きれないから絶対断っていた。
「お前蜜里と仲良かったよな」と続けてきた。
言いたい事はわかる。中学で僕が美香と同じ小学校だったと知った男どもと同じ顔をしている。
「え、黒沢君、女王様と仲いいの」これは後ろにいた中学が同じだった男子。このクラスには他に同じ中学のやつはいない、ただ彼も話した事がなかったから名前は覚えていない。
そして女王様は僕の中学での美香のあだ名。とても本人を前に口にできないこの名称は、元々の愛称が蜂蜜だと知られたのとクールな彼女の印象から連想されたものらしい。
他の学校にも本人が知ったら憤慨する名前がある。
振り向いて「小学校の頃だよ。中学になって接点はない」と言っておいた。
「残念」あまり残念そうじゃない、あわよくば的なノリか。
「それと黒沢君、僕の名前覚えてないでしょう」と自分を指差した、こいつ心が読めるのか。
「仲間内では、生徒会長と言ってたから」ごもごもと言い訳をした。
「酷いな。それ僕の人格ないじゃん」ごもっとも、でも女王様も大概だぞ。
入学初日に話せる顔見知りがいるのは安心できた、ぼっちにならずに済みそうだ。
ーーーーー
母さんは入学式には間に合ったようだ、二家族揃っての入学祝いのランチに同席している。
「和則さんに見せるため、動画いっぱい撮ちゃった」と母さん、相変わらず仲の良い事で。
「それ千尋さんの泣き声入りまくりね」と幸おばさん。
母さんの息子愛は離れて暮らすようになってから加速した、帰省時の僕へのかまい方が異常に感じる。
「和樹君、美香を頼むわね」と幸おばさん。
すかさず「和樹に私の何を頼むの、私家事全般できるけど。どちらかといえば私が彼の世話をする事になる」
確かにこれまでもたまに僕の部屋を掃除してくれていた。なので男子お決まりのブツは全部パソコンの中だ。
「美香ちゃんごめんね、何もできない息子で」
「信じているからな。たとえ和樹君でも娘を泣かせたらたたじゃおかない」とおじさん。
ドキリとする。判っています、もうあんな顔絶対見たくない。
「これは私と和則さんからの贈り物だ」と美香に何かを渡した。
「男親2人から。偶然ママたちからもプレゼントよ」とおばさんも何かを渡す。
どちらも片手で持てるほどの大きさだ、なぜ彼女にだけ?
「さっき家具の設置が終わったって、連絡がきた」と母さん。
「東京に残るって聞いた時は大胆と思ったけど、そうなるようにしてきたの私たちだしね。はい、これが部屋の鍵」
おばさんがそう言って部屋番が1つ違う鍵を2つ僕たちの前においた。
隣部屋か。
「お〜や〜。2人とも同じ部屋に住むと思ってたのかな〜」
幸おばさんがからかってくる。
「そ、そんな事」
「お、思ってるわけないでしょう」
2人で強く否定した
幸おばさん、にやりとして「そこは世間体があるからね」
2人はそんな甘酸っぱい関係ではないです。
でも正直にいえばガッカリしている自分がいる、高校男子なら正常だ。
食事が終わり、母さん達はそれぞれ空港へ向かった。あっさりしたものだ。
僕たちは、帰る方向が同じなのに少し離れて移動した。
「それじゃ」と美香は隣の部屋に入っていった。
「おう」と答えながら僕も自分の部屋に入る。
室内は思っていたより広いし、そして築年数に比べ新しい。
聞いた話では、前は若い夫婦が住んでいてリフォーム直後に手放したとの事だ。
そして奥に美香がいる。
「何がが世間体、なの」彼女は真っ赤になって怒っていた。
僕らの部屋は入り口が別だが中は1つになっていた。
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