第3話 友人との雑談
ベッドが1つという問題は、背中合わせで眠るという暗黙の条件で解決した事にした。
解決したんだ、自分にそう納得させる。
寝不足が続く。彼女は早く状況を受け入れたのだろう、眠っている。
僕的には色々と問題が有るが、2人での共同生活は問題なくできている。学校のほうも落ち着いてきた。
僕は弓道部に入った。
最初は茶道部に入って帰宅部化しようと思っていたが
「帰る時間ずらして」という美香の一言で変えた。できるだけ僕の顔を見ないでいたいようだ。
時間をズラすなら美香が部活をすればいいのにと思ったが
「部活動して帰ったあとに夕飯なんて作れない」とさっさと天文部に入っていた。この部は夜が本番、だが女子部員はそれに参加しなくてもよい。
中学ではバスケ部に入りそこそこいい成績を残していたので「もったいない」と言うと「いいの」と返された。
もったいないと思っていたのは僕だけでない、上級生からも勧誘を受けていた。断られた先輩が「なんで」とがっかりしていた。
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「プー、結構走れるんだ」とは友人に戻った丸川幹。
あだ名がプーなのは受け入れていないが。
「ランニングしていたおかげかな」毎日付き合わされていたからな。
「帰宅部だったのに」
「帰宅部が走ちゃだめか」
「ふ、普通は、うん運動部に入る」とは生徒会長改佐々木志郎君、彼はゼエゼエ言いながら肩で息をしている。
3人で同じ弓道部に入った。弓道部は全員でのランニングから始まる。
全員が戻ってくるのを待って「1年は準備しとけ」と先輩が指示を出す。
「まて、まだ一年道具に慣れてない、床を拭いてくれ。道具の準備は出来る者がする事。お前達にもさせなかったよな2年」とは別の先輩。3年生だ。
後輩ができ、慣れない先輩風を吹かせた2年生に3年生が釘を刺した。
これが僕たちが弓道部に入った理由。弓道部は運動部だが、運動部によくある上下関係が薄いと聞いたからだ。
顧問の先生は名ばかりで、指導は80歳を超えた女性の百合さんがおこなっていた。
週2回ほどくる百合さんは「80を超えた私から見れば2、3才なんてないようなもの」と礼儀には厳しいが、1年と3年も同じように扱う。
歴代の活動の中で居心地のいい雰囲気が造られている。
僕が通っている高校は柔道、剣道など名前に道がつく部活が多い文武両道を掲げている私立校だ。
県大上位の柔道と違い、弓道部は弱い。
教えている百合さんも「勝負事は教えれない。私にできるのは弓を引けるようにするだけ」と言っているのでなおさらだ。
だが自分もまだまだだと言っているので、その『引ける』のレベルが高いのは想像できた。
その百合さんが「黒沢さん、少しよいですか」と部活終わりに僕を引き留めた。
「お父様に直接お礼を言いたいのですが、いつなら都合が良いか聞いてきていただけないですか」
「今、両親海外に行ってまして、日本いないんです」
「そうなんですか。では手紙を書きますので、渡していただけませんか」と言われた。
「お〜、ぷー今一人暮らしなんだ、今度泊まりに行かせて。一晩中遊ぼうぜ」と幹が後ろから飛びついてきた。
「悪い仲間の溜まり場にならないようにと、友人を家に入れるのは禁止されている。防犯しっかりしたとこだから僕の所に誰が来たか親にも連絡行くようになってる」と友人を呼べないという設定を説明した。
「親御さんの心配もごもっともですね。丸川さんご両親との約束を破らせるなど友人のする事では有りませんよ」
「ちぇ。何もしないのに」
「判ってるって」すまん幹、誰も入れれないんだ。
「でも百合さんがお礼したいってなんだろう?」と志郎が帰宅中に思い出したように言う。
想像はできるが「さあ、なんだろう?」と誤魔化した。多分寄付だろうが、親からは教えてもらっていないのだから嘘は言っていない。
ランニングで基礎体力が思ったり有ったが、慣れない部活をして帰ると夜はぐっすりだ。ありがたい。
問題が起きなかったわけではない。朝、彼女が僕に抱きついていることが有る。
「お互い様、私に意識ないんだから気にしないようにして。忘れること」とかなり圧を感じる言い訳をされた。
いい匂いだし、柔らかく暖かい。この五感に強烈に残る記憶を消すのは、かなり難しい。
「なに思い出してるのよ、ルール違反」
朝食の用意をしていた美香が僕の顔を見ながら言った、にやけていたのか。メガネ越しの視線で責められる。
「ごめんなさい」
休みの日でも、二度寝は禁止だ。せっかく美香が作ってくれている朝食を食べれなくなる。
彼女も今日はラフな格好、僕と色違いのスエットを着ている。
「今日お昼いらないんだよね」と美香。
「うん。幹達と道具見に行ってくる」
前から約束していた事だ。部の共有の道具は増えたが、やっぱり自分のものを持ってみたい。
ネットで一応見たが、本物を見に行こうというのだ。見に行くだけだ、すぐに買える値段ではな。
待ち合わせの場所に行くと2人はもう来ていた。
「よぉ」
店では弓や矢かけなどを見て「すげ〜」「いいな」とか見て回った。
買えないので「試してみますか」という店員兼看板娘の営業スマイルは辞退した。
「百合さんもすぐに買う必要はないと言ってたからな」
「続ける気になったらでいいって」
「年齢関係なく出来るのは、百合さん見てると納得だし」
昼はハンバーガーだ、久しぶりだがこれも悪くない。ちょっとしょっぱく感じたけど。
「和樹は親に頼めば、買ってもらえるんじゃ」とは志郎。
「おい」幹が慌ててフォローに入る。
「大丈夫気にしていない」
確かに親は金持ちで息子に甘い。僕の入った部にポンと寄付したらしい。
「買ってもらえるだろうけど、せめて小遣いを貯めるとかしないとありがたみが湧かない」
「結局、親の金じゃん」
「気分の問題」
金持ちなのは親、僕じゃない。
それにいくら金があっても、僕の一番の問題、美香に嫌われている事実は変えようがない。ふう〜、心の中でため息をつく。
「じゃ、一緒にアルバイトでもするか」幹が誘ってくれたが
「バレたら小遣い増額されるだけだよ」
「「羨ましい」」と2人。
「もしそうなったら、お前達分も一緒に買うぞ。自分で手に入れた達成感無くしてやるからな」
「それ仕返しか。微妙だな」
友人とくだらない話をするのはいいな。
「おい。気づいてるか」といきなり、緊張した声を幹がだす。
なんだ。
「向こうにいる沢女の2人組の子。こっちチラチラ見てんだよ」と目だけ左に動かす。
その視線の先を僕も追うと制服2組の女子がいた。あれ沢女の制服なんだ。
「俺じゃないな、何せジャージだし」と志郎、早々と降参してる。
「俺かプーってとこか、どっち狙いだ。2人共か」幹が前乗りになってる。
「志郎、お前帰れ」
「ひでえ〜」と志郎が笑う。
「意外と志郎狙いかもよ」と僕。
「あのポニーテールの子、めっちゃ好みなんだ。声かけてこようかな」と幹がやばい領域に入り始めた。
「あの小さな方」と僕が聞くと、うんうんと頷いた。
「幹って、いかにも可憐で判りやすく可愛い子が好きなんだ」とは志郎の人物評価。
確かに可愛いけど、僕の好みじゃないな。
辛抱できず声をかけにいった幹を労うため、帰りに3人でカラオケによる。
夕食に遅れそうになり、美香が不機嫌だ。理由を説明したら、変に言い訳をしたためか逆に怒りが増したように見える。
「師匠、俺にはどんな服が似合いますかね〜」
「知らん」
昨日から幹が変な絡みを覚えた。
僕はオシャレに疎い、わかるはずないじゃないか。
「清潔感があったのが良かったんじゃないか」とは志郎の僕への人物評価。結局3人ともオシャレを語る資格がない。
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