episode3

第147話 おじさん、近況を語る。

 裏鬼門うらきもんのダンジョンのケルベロス封印から三ヶ月が経った。


 俺は、相変わらず鶴峯つるみねのもとで、探索庁の職員として働いている。

 俺は、三ヶ月まえ、ロカと話したことを思い出す。


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 記者会見終了後、鶴峯つるみねの祝賀会への誘いを振り切って、俺とロカは、JRのターミナル駅のファストフード店で鶴峯つるみねに対する違和感について話し合った。


「だから(もくもぐ)、あの人は絶対に鶴峯つるみね局長じゃないって(もくもぐ)絶対に!」


 ロカは、ポテトを高速で食べながら鶴峯つるみねが別人だと断言をする。


「別人……とはいっても、見た目は鶴峯つるみねにそっくりなんだよな。あいつは15年前から、ずっと変わっていない」

「(もくもぐ)そこ、そこだよおじさん! 鶴峯つるみね局長って何歳なの?」

「ササメや丙田ひのえだと同い年だから40前後といったところか?」

「(もくもぐ)そうなの? ササメさんやカンコさんってそんなに年上なんだ! ふたりともすっごく若いから全然見えないよ」

「まあ、な。でもそれは鶴峯つるみねも似たようなもんだろう」


 俺の発言に、ロカは目の色を変えて机をバンと叩いて立ち上がる。


「そこだよ! そこ!! アタシに稽古をつけてくれた鶴峯つるみね局長は、あんなに若くなかったもん。おじさんと同じ40歳くらい……ううんもっと上、50代とか、60代くらいって感じ?」

「な……そんなバカな!?」

「本当だって!!」


 ロカはカバンからスマホを取り出して、写真フォルダを見せる。そこには、自撮りを決めるロカと一緒に、力なく笑う初老の男が写っていた。


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 あれから、探索庁から依頼された講演会や、新人探索者のコーチをこなしつつ、鶴峯つるみねをそれとなく見張っている。


 とはいえ、鶴峯つるみねも、そう簡単には尻尾を出すわけがない。


 第一秘書の犯林おかばやしさんにもそれとなく話を聞いてはみたが、別段怪しいところはないとの回答だった。

 鶴峯つるみねのことを一番近くで見ている犯林おかばやしさんでさえ違和感に気が付かないんだ。俺なんかが気付けるわけがない。


 まあ、この情報は、ササメやヒサメ、丙田ひのえだたちにも共有済みだ。いずれ、だれかが化けの皮を剥がしてくれるだろう。


「あなた、そろそろ出かけるわよ」

「ん? ああ。ほら、海二かいじ。お父さんと一緒におでかけするよ」


 ササメに声をかけられた俺は、長男を抱っこして、抱っこ紐を装着する。


「はい、一海ひとみ三海みつみは、お母さんと一緒ねー♪」


 ササメは、長女と次女を双子用のベビーカーに寝かせる。三つ子となると、家族でおでかけするのもひと苦労だ。


 俺達は家を出ると電車に乗った。

 目的は……引っ越先の内見と言ったところだ。一家5人暮らしで2Kのアパートは、流石に手狭になるからな。


 電車の釣り側に捕まっていると、とつぜん、若いカップルに声をかけられた。


「その子、あそこのベビーカーの赤ちゃんと同じお子さんですか?」

「え? あ、はい……三つ子なんです」

「わぁ! すごーい!! あ、この席もしよかったら……」

「え? あ、すみません、ありがとうございます」


 俺とヒサメは、席をゆずってくれた若いカップルにお礼をすると、すやすやと眠る三つ子と一緒に、都心へ向かう電車に揺られた。

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