episode2.5
第145話 ダンジョン地図職人。
見渡す限り一面の湿地帯。ここはダンジョンである。
ダンジョンから溢れ出すマナが空間を歪め、雄大な大自然を作り出している。
ここはとあるダンジョンの第12層。
20歳くらいだろうか……フードをまぶかにかぶった青年が、湿地帯の中にポツリ、ポツリとある、広葉樹に上り、枝葉に身を隠していた。
ズシーン。ズシーン。
すぐ目の前を、身の丈10メートルはあろうかという、赤い体躯のサイクロプス型のモンスターが目の前を通り過ぎるなか、青年は構えていた拳銃の引き金を静かに引いた。
銃弾は、サイクロプス型の20メートルほど前方を横切って着弾する。
外した? いや違う。
ドッグワ~ン!!
事前に仕掛けておいた地雷を、サイプロクス型が踏み抜いて、前方へゆっくりと倒れる。そして、
スパン!!
サイクロプス型の顔面が地面に激突する瞬間、首が切断されて明後日の方向にすっ飛んだ。
ジャラジャラジャラジャラジャラジャラ!
首をはねられたサイクロプス型は、煙を拭きながら霧散すると、緑、赤、白、青、そして黄色の、まるで宝石のような結晶へと変わっていく。
高濃度のマナが閉じ込められた『シェールストーン』だ。
青年は、サイクロプス型が完全にシェールストーンへと変化するのを見届けると、構えっぱなしだった銃の引き金を離すと、極細のワイヤーがキュルキュルと巻き取られていく。
鍛え抜かれた鋼をも切断し、数トンもの荷重にも耐えうるシェールストーン製のワイヤーが彼の必殺の武器だった。
青年は、ワイヤーを銃身に全て収めきると、周囲に散らばったシェールストーンをひとつ残らず回収をしていく。地上に戻って換金をするためだ。
シェールストーンを回収しきると、休むまもなくスマートウオッチを確認する。
「なるほど、南南西か……」
そう言い残すと、青年は湿気でぬかるんだ足元をものともせず、軽快な足取りで走り去っていった。
30分後、青年は外周100メートルほどの小さな池の前にいた。
「ここか」
青年は、手につけたスマートウオッチを確認すると、おもむろに拳銃を取り出す。
打ち出したのは、先程手に入れたシェールストーン。緑色と、青色のものだった。
銃弾がつくった水の波紋とシンクロするように、じんわりと青色と緑色にそまっていく。
池の中の青と緑のマナは、少しずつ溶け合って、目が醒めるような鮮やかなターコイズ色へと変色していった。
青年はターコイズに変色した水面に手を付けると、
「コーティング!」
と、つぶやいた。
途端に、ターコイズ色の水面が発光する。
青年は発行した水面を強く押した。が、水面は青年の手を拒絶するように10センチほど沈み込む。青年が手を離すと、水面にはくっきりと手形が残っている、。抵抗を失ったその手形はゆっくりゆっくりと戻っていき、最後にぷるんと小刻みに揺れて元の形状にもどっていった。
水面が、ゼリー状に固まっているのだ。
青年は、再び水面に手を付けてつぶやく。
「フロート!」
水の池は、少しずつ、少しずつ宙に浮かんで上空3メートルのところで静止した。
池のサイズからして軽く10トン近くはあるだろう水が、ぷよぷよと宙に浮かんでいる。
そして池の底から紫色に発光する魔法陣が現れた。
このダンジョンの最下層、このダンジョンの主がいる階層に通じる魔法陣だ。
青年は無表情のまま、上着のポケットから、球状の物体を取り出す。無重力制御が可能なフロートカメラだ。
カメラを顔の前に置くと、左手にはめたスマートフォンで、フロートカメラを操作する。
最初に、魔法陣が光る池のそこを360°グルリと撮影し、その後に、池の外周を一通り撮影すると、フロートカメラを再び顔の前に戻す。
青年は相変わらずの無表情で、フロートカメラをつかんで上着のポケットに収めると、
「リリース」
と、つぶやいた。
青年の声に呼応して、宙に浮いたゼリー状の水が瞬く間に元の水に戻り、紫色に光る魔法陣を隠していく。
青年はラスボスがいるダンジョンを眼の前にしてためらうこと無くひきかえした。
青年の名前は、
ダンジョンを先行して探索し、ダンジョンの主がいる最下層までの最も安全なルートを探し出す。ダンジョン地図職人だった。
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