第144話 おじさん、旧友の違和感に気づく。

 会見の場へ、故泉こいずみ大臣、鶴峯つるみね、ロカ、俺の順番で入出すると、会場は若干のどよめきとともに、次々とカメラのシャッターが切られていく。


 彼らの視点は、ロカと俺に集中する。


 アイドル的な人気を誇るロカが、未制圧のダンジョンの攻略メンバーに選ばれているという驚き、そして、俺の左腕が欠損をしている事実に対する驚き。それらがまぜこぜになっているという印象だ。


「ただ今より、裏鬼門うらきもんのダンジョン制圧ミッションの報告会を始めさせていただきます」


 俺達が席に座るタイミングに合わせて、演説台に立つ犯林おかばやしさんが、メモをみつつ発言をする。


「最初に探索庁局長の鶴峯つるみねより報告を行い、その後質疑応答の時間を設けております。質問は、1媒体につき1問のみとさせていただきます。それでは、局長、よろしくお願いいたします」


 鶴峯つるみねは、犯林おかばやしさんにうながされると、よどみなく説明をはじめる。


裏鬼門うらきもんのダンジョンは、うしとらのダンジョンからわずか数百メートルほど離れた場所に発生した、今までに例をみないダンジョンです。

 ですが、事前調査により、構造がうしとらのダンジョンに非常に似通っているとの報告を受け、うしとらのダンジョン制圧実績のある田戸蔵たどくら隊長が制圧の任に就くことになりました……」


 鶴峯つるみねは、ノートPCでプレゼンテーションを操作する犯林おかばやしさんと絶妙なコミュニケーションで、つつがなく説明をつづけていく。


 犯林おかばやしさん、いつのまにこんな立派な資料をつくりあげたんだろう。めっちゃ仕事できるな。

 鶴峯つるみねは、ケルベロスなどの秘匿情報は巧妙に隠しつつ報告を終える。


「つづきまして、質疑応答にまいります。繰り返しとなりますが、ご質問は1媒体につき1問のみとさせていただきます」


 犯林おかばやしさんの説明が終わるやいなや、記者席からいっせいに手が上がる。


「では……そこの前から2列目のメガネの方」

「○○新聞のN川です。田戸蔵たどくら隊長に質問です。討伐参加メンバーは全員で6名とのことですが、他4名は何故、会見に参加しないのでしょうか?」

「………………………………」


 俺は事前の打ち合わせ通り無言をつらぬく。


「先ほど、鶴峯つるみねより報告しました通り、守秘義務がございますので、回答は控えさせていただきます。また当然、配慮なき詮索は、くれぐれもお慎みをお願いいたします……では、次の方。後ろの白いジャケットの女性の方」

「✕✕テレビのO木です。田戸蔵たどくら隊長に質問です。さきほど、探索メンバーは2人軽症とのことですが、隊長の左腕はどうなさったのでしょう?」


 これくらいなら返答してもいいよな? 俺は右手でマイクを持つ。


「左腕は義手なんです。若い頃の事故が原因です。探索のときは義手を武器にしているのですがダンジョン探索中に義手が壊れたんです」

「わかりました、ありがとうございます」


 周囲に安堵の空気が広がる。確かに『ダンジョンに行ったら腕が失くなってました』は怖いものな。ハリボテでもいいから、義手をつけておくべきだった。

 

「……では、次の方。時間も押し迫ってまいりましたので、次の質問を最後と致します。では、そこのチェックのシャツの方」

「デュフフ。▢▢動画のK川です。ロ、ロカちゃんに質問です」

「え? は、はい!!」


 名前を呼ばれて、ロカは慌ててマイクを取る。


「ロカちゃんは、本当にダンジョン探索に参加したんですか? 映像は非公開だし、怪しいなぁ」

「な! ワタシ、おじさんと一緒に戦ったよ!!」


 質問者の不躾な質問に、ロカが反論する。


「デュフフ。本当ですかぁ?⤴️ 怪しいなぁ。ひょっとして、最近CMに出ている、清涼飲料水のタイアップかなにかじゃないのぉ?」

「黙れ!」


 俺は無意識にマイクを持っていた。


「ロカが1日も欠かさず訓練をしているのは、この俺が誰よりも知っている。確かにまだまだ未熟な部分もあるが……今後も探索庁からダンジョン攻略を依頼されてもロカは必ずメンバーに加える。俺が最も信頼している探索者だからな」

「……あ、う……」

「では、これで質問を終了致します」


 質問者が言葉に窮するなか、犯林おかばやしさんが冷静にシャットアウトをすると、鶴峯つるみねがマイクをもつ。


「くだらない質疑応答はここまでにして……最後に、皆様には露花つゆはなくんの言葉を聞いて欲しい。さ、露花つゆはなくん」

「あ、はい」


 ロカは改めてマイクをもつと、席から立ち上がって大きく息を吸った。


「アタシは、アタシの想いをどうしても伝えたい人が居ます。最初に、ある日突然いなくなっちゃったママ! アタシ18歳になったよ。もう成人だよ。もしどこかで見ていたらお返事ください!!」


 そうだったのか……俺は、ロカと初めて合った1年前を思い出す。探索者になったのも、有名になって母親にその存在を知ってもらうためだったのかもしれないな。


「もうひとり、アタシに今の戦闘スタイルを伝授してくれた第2のお師匠様! 今、どこに居ますか? 会ってお礼がしたいです!!」


 は? お礼もなにも、鶴峯つるみねはすぐとなりに……


 ゾクリ。


 心臓をにぎりつぶされるような殺意に鳥肌が立つ。

 俺はロカの隣にいる男の顔を見た。その男は、おもいきり口角を釣り上げて、キシキシと笑っていた。


 …… お ま え …… だ れ だ ? ?








元最強探索者のおじさん。美少女配信者を助けて大バズりしてしまった。

Episode3に続く。



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 なかがき

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 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 めっちゃ嬉しいです。


 このあと、ほんの少しだけ登場した、地図職人のたすくくんのお話をはさんで、Episode3へと続く予定です。


 ひきつづき、応援のほどよろしくお願いいたします。

 少しでも「おもしろかったな」と思われましたら、★★★のご評価をいただけますと幸いです。執筆の励みになります!!


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