第143話 おじさん、大臣と美少女と会見に臨む。

 俺とロカは、裏鬼門うらきもんのダンジョンの出口へと通じる魔法陣へと入る。


 地上に転送されたとき、眼の前にいたのは鶴峯つるみね、そして第一秘書の犯林おかばやしさんだった。


「やあやあ、待っていたよ、田戸蔵たどくら。悪いが故泉こいずみシェールストーン大臣の予定があってね。すぐにでも会見を行いたい。探索庁までご足労願えないかい?」

鶴峯つるみねそれは構わないが、未蕾みつぼみさんや丙田ひのえだはどうした? 先に着いたとおもうんだが」


 鶴峯つるみねへの問いかけに、犯林おかばやしさんが代弁をする。


未蕾みつぼみ様御一行と丙田ひのえだ様は、すでに帰られました。残念ながら、会見には欠席したいと」

丙田ひのえだくんはともかく、未蕾みつぼみくんはかなり衰弱していたようだからね。体調を優先してもらったよ。丙田ひのえだくんにはカーバンクルランドに対する質問に答えてもらおうと思ったんだがね。まんまと逃げられてしまったよ」


 鶴峯つるみねは肩をすくめて閉口すると、ロカの方を見る。


露花つゆはなくん、君はどうする?」

「アタシはおじさんと一緒に出席します!」

「ほう! これはこれは。嬉しいね!!」


 ロカにも断られると思っていたのだろう、鶴峯つるみねは大手を振って喜んだ。


犯林おかばやし、さっそく会見の準備を頼む。新進気鋭の女子高生探索者が会見に加わってくれれば、おじさんだらけの会見が華やぐよ」


 会見の準備の連絡だろう。犯林おかばやしさんは短い電話をかけたあと、俺とロカをハイヤーへと案内してくれる。ここから探索庁までは10数分ほどだ。


「なあロカ。会見で何を話すつもりだ?」

「ヒミツ!! それよりおじさん、服を着替えたいからちょっとあっち向いてて!!」

「あ、ああ……」


 俺は大慌てで窓の方へと振り返る。ハイヤーは渋滞に捕まることもなく、ロカが戦闘コスチュームからジャージ姿に着替える頃には、探索庁の地下駐車場へと到着した。


「さあ、急いで! 故泉こいずみ大臣がお待ちです」


 俺とロカは犯林おかばやしさんにうながされてエレベーターへと向かう。そこには、故泉こいずみ大臣が、鶴峯つるみねと一緒に立っていた。


「いやはや、お手柄だね、田戸蔵たどくらくん、話は鶴峯つるみねくんから聞いているよ。ケロベロスを封印したということは、つまり、裏鬼門うらきもんのダンジョンを制圧したということでしょう。それと、ん? 君は??」

「お久しぶりです。故泉こいずみ大臣!」

「おお! 君は、私がうしとらのダンジョンで危険がピンチだったときに、私のピンチを危険から救ってくれた娘じゃないか!」

「はい! 露花つゆはなロカって言います!」

「あのときのことは感謝しています。つまり、私は君に感謝をしているということです」

「あの……故泉こいずみ大臣、時間がないので早くエレベーターに。段取りは移動しながら説明しますので」


 鶴峯つるみねは、故泉こいずみ大臣の周りくどい会話を強引にうちきると、エレベーターのなかで会見の段取りを説明し始める。


「……なるほど、なるほど、つまり、私は黙っていれば、会見は滞りなく進むということですね」

「はい。報告はすべて私が行いますので、故泉こいずみ大臣と、鶴峯つるみね、そして露花つゆはなくんは質疑応答をお願いいたします。機密保持ならびに答えにくい回答に対しては、司会の犯林おかばやしに制止させますので」

「なるほどなるほど、了解しました。つまり私は一言もしゃべらないということですね」

「そのとおり! 鶴峯つるみね露花つゆはなくんも、返答に窮する質問は2、3秒ほど間を置いてくれれば、あとが犯林おかばやしがうまく進行をしてくれる」

「わかった」


 鶴峯つるみねの説明に、俺は首肯をしつつ安堵する。進行は、鶴峯つるみね犯林おかばやしくんにまかせておけば安泰だろう。


露花つゆはなくんも、かまわないね?」

「はい。でも、1分、いや30秒だけでもいいんで、お時間をいただけますか? アタシ、どうしても想いを伝えたい人がいるんです」

「………………ああ、構わないよ」


 鶴峯つるみねは口角を上げてうなづくと、


「では、いくとするか」


 と、俺達を会見の場へとうながした。

 

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