第142話 おじさん、裏鬼門のダンジョンを去る。

*今回からしばらくおじさん視点です。


 ブゥウウン……


 俺達は、最下層から鈴木くんのまつ13層の拠点に移動する。


「お疲れ様っす……ミ、ミライ!! 大丈夫っすか!?」


 鈴木くんは、田中くんにおぶられた未蕾みつぼみさんを見るなり、顔色を変えて駆けよると、未蕾みつぼみさんをお姫様だっこする。


「だいじょうぶ、だいじょうぶー。ちょっと疲れただけだからー」


 無理やり笑顔をつくる未蕾みつぼみさんを見て、田中さんが言葉を発する。


「細かいことはおいおい話すが……鈴木、今はなにも聞かずにミライのそばにいてやってくれ」

「なんだかよくわかんないけど、任されたっす!!」


 鈴木くんが景気よく返事をすると、鈴木くんに抱かれた未蕾みつぼみさんは、何も言わずに鈴木くんの胸に顔をおしつける。


 田中くんは、ふたりの姿を微笑ましくながめたあと、俺に向き直った。


田戸蔵たどくらさん、申し訳ないですが、ダンジョン制圧の会見は不参加とさせてください」

「わかった」

「ありがとうございます。さ、行こう」


 田中くんと鈴木くんは、俺に軽く会釈をすると、裏鬼門うらきもんのダンジョンの出口の魔法陣へと入っていった。

 田中くんたちとの一連のやりとりをだまって見つめていた丙田ひのえだが、大きく伸びをしながら口を開く。


「ほんじゃ、あたしゃも帰りますかねぇ。いつまでもカーバンクルランドを留守にしとくわけにもいかないし」

丙田ひのえだ、一応確認をするが、おまえは会見に……」

「出るわけないでしょ!! 鶴峯つるみねと一緒に座ってニコニコするなんて、あたしゃ死んでもゴメンだよ!!」

(だろうな……)


 丙田ひのえだは、鶴峯つるみねに対してひとしきりの悪態をつくと、とたんに真面目な表情になる。


「それに、あたしゃやっぱりカーバンクルランドを優先したい。昨日の明け方にかぞえくんから連絡合ったんだけど、昨夜カーバンクルランドが侵入者に襲われたらしくてねぇ」

「本当か!? みんなは無事だったのか!?」

「ん。賊はカノエちゃんが退治してくれたんだがねぇ、彼女も結構な重症だって」

「彼女がおくれをとるなんて、侵入者は何者だ?」

「それが、取り押さえるまえに自爆をしたみたい」

「なん……だと? そんな無茶苦茶な!! 侵入者は一体どんな組織なんだ!?」

「聞きたいのはあたしゃの方だよ!! ……とにかく、あたしゃは帰りの足で病院に直行するよ」


 そこまで言うと、丙田ひのえだはため息をつく。顔には出していないが、今回の一件が相当堪えているようだ。


「ロカ、おまえも丙田ひのえだと同行するか? おまえも、霜月しもつきさんの容態が気になるだろう?」


 俺はさっきからずっと押し黙っているロカに話しかけると、その返答は想いもしないものだった。


「ううん。アタシも、おじさんと一緒に会見に出るよ。鶴峯つるみね局長に伝えたいことがあるし」

「?? わかった」


 ロカが鶴峯つるみねに伝えたいこと? なんだろう??


「カンコさん、かぞえさんやハッちゃんたちに、また会いに行くって伝えておいてください」

「りょーかい。なんなら、高校を卒業したら、ウチに就職してくれてもいいよん♪ ロカちゃんみたいな美少女が来てくれたら、お客さんもわんさか来るだろうしさ」

「あはは、考えておきます」

「ん。そんじゃ、あたしゃは帰るから。じゃあね、ロカちゃん、お師匠」


 そう言い残すと、丙田ひのえだはそのまま魔法陣へと消えていった。


「まったく、相変わらずだな丙田ひのえだは。まあいい、ロカ、俺達も引き返そうか」

「うん」


 ロカは小さくうなづくと、俺に腕を絡めてくる。


「? どうした? ロカ??」

「あの子たち、このまま何百年もここで貼り付けのままなんだね」

「残念だが、俺達にはどうしようもない。あのまま野放しにしていたら、いつ、地上に出て人を襲うかわからないからな」

「いつか、すべての幻獣となかよく暮らせる日がくるといいのにね」

「…………だな」


 答えに窮した俺は、肯定とも否定とも取れないあいまいな返事をすると、ロカとふたりで裏鬼門うらきもんのダンジョンを立ち去った。


 

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