第141話 幕間劇 深夜の局長室での出来事。

 現在は午前2時。つまりは草木も眠る丑三つ時。にもかかわらず、局長室にはふたつのノートPCが煌々と灯っていた。


 ノートPCを開いているのは、探索庁局長の鶴峯つるみね辛一しんいち。そして、鶴峯つるみねの第一秘書の犯林おかばやしだ。


 ふたりは、局長室にしつらえられた応接室で、会話をしている。ノートPCから漏れ聞こえる音を聞く限り、どうやらリモート中のようだ。


『I駅の犯林おかばやしです。こちらの被害は、軽症12名、重症3名、重体1名。重体者は、今夜が山かと』

『S駅の犯林おかばやし。軽症5名、重症2名。重体、死亡者なし』


 ふたりの犯林おかばやしの報告に、鶴峯つるみね辛一しんいちは、大きくうなづく。


「なるほど、なるほど。やはり、寿命を吸い取る対象が若いほど、表に出てくる被害も少ないわけだね?」

『いえ、そうとも限りません』


 鶴峯つるみね辛一しんいちの発言に、3人目の犯林おかばやしが横槍を刺す。


『N駅は、軽症22名、重症12名、重体3名、そして死亡者が1名です。おそらく、新宿、中野より駅の利用客が少なかったからでしょう』

「ううん困った。これは明日、ニュースに取り上げられるかもしれないね」


 鶴峯つるみね辛一しんいちの表情が曇る。が、その言い振りはどこか他人事のようだ。向かいのソファに座っている犯林おかばやしが話をひきつぐ。


庚申こうしん待ちは、本来であれば、3年がかりで少しずつバレないように人間の寿命を吸い取ってマナとして蓄える術式です。3年分の寿命を、それも、庚申こうしんの日ではなく、辛酉しんゆうの日にたった1日で吸い取ったのですから、むしろ、これくらいの被害で済んだのは上出来と判断すべきでしょう」


 犯林おかばやしの発言に、鶴峯つるみね辛一しんいちはふうとため息をつく。


「たしかにね。しかし残念だ。髙屍間たかしま君たちが邪魔をしなければ、予定通りの日程で庚申こうしん待ちを行えただろうに……まったく、彼は最後まで役立たずだったな。まあ、裏鬼門うらきもんのダンジョンから中野駅は数キロ離れている。バレやしないだろう」

「はい。仮に因果関係を指摘できる人物がいるとするならば、最初の探索者、丁番ちょうつがい教授と、最高の探索者、田戸蔵たどくらササメくらいでしょう」

「そして、丁番ちょうつがい教授は行方不明。田戸蔵たどくらササメも、今は動ける状態ではない。我々はしばらく安泰ということだ。まあ、念の為、田戸蔵たどくらササメの動向には注意しておこう。では続いての議題だ」


 そこまで言うと、鶴峯つるみね辛一しんいちは、顔を両手でおおう。


「………………………………」


 しばらくの沈黙の後、両手をはずした鶴峯つるみね辛一しんいちは、向かいに座る犯林おかばやしそっくりになっていた。


「明日の裏鬼門うらきもんのダンジョン制圧報告の記者会見だが、次は、鶴峯つるみね辛一しんいちを演じる?」

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