第140話 美少女、幻獣の封印を見届ける。

「よく頑張ったな、ロカ!」

「うん……おじさんも無事で良かったよ……」


 アタシがおじさんのシャツで涙をゴシゴシと拭いていると、


『どうやら、幻獣の無力化に成功したようだね』


 背中から声が聞こえてきた。鶴峯つるみね局長の声だ。


 アタシは大急ぎで涙を拭き取って、鶴峯つるみね局長の声の方向へ振り向くと、浮遊カメラがフワフワと浮いていた。

 浮遊カメラに向かっておじさんが口を開く。


「ああ、そっちの準備は大丈夫か?」

『もちろん』


 鶴峯つるみね局長は、静かに右手をあげると「パチン」と指を鳴らす。すると、


 ……ゴゴ……ゴゴ…………ゴゴゴゴゴゴ……

 ……ゴゴ……ゴゴ…………ゴゴゴゴゴゴ……

 ……ゴゴ……ゴゴ…………ゴゴゴゴゴゴ……


 天井の3方向から、銀色の物体がせり出してくる。うしとらのダンジョンのケルベロスを封印していた鉄柱だ。

 鉄柱は、みるみると伸びていって地面に激突する。


「無事に成功したようだな」

『ああ。念の為、封印の様子を確認しよう』


 浮遊カメラは、カンコさんと田中さん、そしてミライさんのいる場所へとフワフワと移動する。

 ミライさんたち3人は、みんな一点をみつめている。ケルベロスだ。

 アタシとおじさんも、ミライさんたちの輪に加わってケルベロスを見る。


「ギャァウウウウウウゥゥ……」

「ガァァウウウウウウゥゥ……」

「バウァウウウウウウゥゥ……」


 鉄柱に頭をうちつけられた3頭のケルベロスが、苦しそうなうめき声をあげている。その身体には胸から下がなくなっている。

 アタシとミライさんの合体わざ、超巨大ファイアボールの直撃をうけたからだ。

 傷口は、ぶくぶくと泡立っている。回復をしてるんだ。きっと数日もすれば、身体の損傷はかいふくするだろう。でも、頭に打ち付けられた鉄柱は、死ぬまで外れることはない。


「うう……いたいよね……ごめんね……ごめんなさい……」


 ミライさんは、口をおおって変わり果ててしまったケルベロスに謝っている。


「かわいそう……」


 アタシも思わずつぶやいた。1年前のあの可愛かったケルベロスの赤ちゃんが、こんな姿になるなんて。

 カーバンクルランドでのびのびと暮らす、ナナちゃん、ハッちゃん、キューちゃんとの運命の違いにがくぜんとする。どうして、この子達は、数人かずとさんのような優しい飼い主に恵まれなかったんだろう。

 どうして、こうなる前にこの子達のことを見つけてあげることができなかったんだろう。


『うん。確実に3頭の脳天を串刺しにしているね。これで、うしとらのダンジョンで失われたシェールストーン産出量を補うことができそうだ』


 アタシの気持ちを踏みにじるように、浮遊カメラから鶴峯つるみね局長の声がきこえてくる。


「ずいぶんと、ドライな物言いだな」


 おじさんが、浮遊カメラにうつった鶴峯つるみね局長をにらむ。


「その言い振りだと鶴峯つるみね、オマエはこのケルベロスの封印を喜んでいるように聞こえるが?」

『当然さ。うしとらのダンジョンのシェールストーン産出量は、日本の10%を担っていたんだ。この損失に対し、早期の解決を図れたのは特筆に値する。君たちはヒーローさ。

 早速記者会見の準備を開かないとな。人気配信者の未蕾みつぼみくんと、露花つゆはなくんがいるから、この機会に是非とも、探索者増加のアピールを行いたい。協力してくれるね?』

「は……?」

「え? えっと……?」

『探索者が増加してもらわないことには、せっかくのダンジョンも宝の持ち腐れだからね。是非とも若者を多く取り込んでいただきたい』


 やっぱり違う。このモニタに写っている人物は、アタシに今の戦闘スタイルを教えてくれた鶴峯つるみね局長とはまるで別人だ。

 おじさんが、右手で頭をかきながら話をする。


「なんというか……かわったな。鶴峯つるみね。最近、ずいぶんとライセンス保持者の実力が下がってきたと思っていたんだが、それもオマエの判断か?」

『ああ。数年前までの審査基準では、ほとんどの人材が適正不足と判断されてしまうからね。せっかく一攫千金が叶う場所があるんだ。もっともっと間口を増やして若者にチャンスを与えないとね?』

「チャンス……だと? ダンジョン探索は危険と隣り合わせの仕事だぞ? そのための適正しんさだろう?」

『問題ないさ。事実、適正のある人物なら、しっかりと生き残っているじゃあないか。適性のない人間にどのみち社会的な意義はないだろうしね。来季にはグリーンライセンスの試験は撤廃される見込みだ』

鶴峯つるみね!! おまえ日本をめちゃくちゃにするつもりか!?」


 おじさんの感情がピークになったときだった。


 ザシュ!


 カンコさんの投げナイフが、浮遊カメラを貫いた。


「今の鶴峯つるみねは、何言ったって聞きやしないよ。は、もう、お師匠が知っている鶴峯つるみねじゃないんだ」

「俺の知ってる鶴峯つるみねじゃない? どういうことだ??」

「言葉のとおりさ。3年前まであたしゃと一緒に幻獣保護派筆頭だったのに、今じゃ正反対の、シェールストーンエネルギー推進派だからねぇ。どんな心変わりがあったのかしらんけど」

「そうなのか……」


 おじさん、カンコさんの言葉にあきらかにショックをうけている感じだ。おじさんだけじゃない。アタシもめっちゃショックをうけていた。


 でも、変だな。カンコさんはっていってたけれど、アタシが鶴峯つるみね局長に今の戦闘スタイルを伝授してもたったのはまえなんだけど……。


 ひょっとして……本当に別人……なのかな??

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