第138話 美少女、作戦を決行する。

 アタシは、おおきく息を吐いて集中するとポシェットについた4つのボタンを次々に押していく。ボタンを押すことで、シェールストーンを砕いてマナが抽出できる仕組みだ。

 精神を集中して、直径30センチほどの、限りなく真円に近い円を描いていく。


 フワン……フワン……フワン……フワン……


 緑、緑、緑、緑……シェールストーンから溢れ出たマナが球体となって、ゆっくりとアタシの身体の周りを回転していく。


 コーティングした4つのマナにすぐにアクセスして、臨機応変に対処する。

 鶴峯つるみね局長に伝授された、アタシのバトルスタイルだ。


 アタシは、カノエさんみたいな超人的な体術を持ち合わせていないし、おじさんやミライさんみたいな超火力も、カンコさんみたいな耐久力も持ち合わせていない。


 でも、


 マナに最短でアクセスできて、消費マナもコントロールできるこのバトルスタイルは、アタシにしか扱えない特別な戦闘スタイルだ。


 オールレンジ起動型。この戦闘スタイルを、徹底的に極めるんだ。


 アタシはミライさんを見る。

 弓のジョイント機能を使って、矢じりの先端に赤いシェールストーンをセットしている。矢を放てば、自動的にシェールストーンを砕く仕組みだ。


「準備できましたー!」

「アタシも、いつでも大丈夫!!」


 前衛のおじさんたちに大声で合図をおくる。


「了解だ。準備ができるまでそのまま待機!!」


 おじさんが大声で反応すると、左頭のケルベロスの喉元に、白いマナのこもった義手で強烈なアッパーカットをおみまいする。


「ギャうう!!」


 ケルベロスが悲鳴をあげてのけぞるなか、おじさんは素早く態勢を低くしてケルベロスの腹のしたにもぐりこみ、左手の義手を外して地面に立てかける。


「グロウアップ!!」


 ザシュウ!!


 おじさんの掛け声とともに、白く輝く義手が縦に伸びていく。その長さおよそ3メートル。義手はケルベロスの腹を腹部に突き刺さり、そのまま背中まで貫通している。


「!! ギャンギャン!!」

「!! ガウガウガウ!!」

「!! ガウガウガウ!!」


 痛みに耐えかねたケルベロスは、狂ったように吠えるなか、親指をたてたおじさんの叫び声がかすかに聞こえてきた。


「準備完了だ!! ぶちかましてやれ!!」

「了解!! 「八分音符の上昇気流エイトノーツ・ドラフト!!」


 アタシは小さな竜巻を使ってケルベロスに突進をする。8個目の竜巻を蹴り上げて、ケルベロスのお腹の下にもぐりこもうとしたときだった。


 バギィ!!

「!! しまった!!」


 ケルベロスのむちゃくちゃな前足攻撃に、田中さんが大盾もろとも大きく跳ね飛ばされる。

 再度振りかぶられたケルベロスの腕は、猛スピードでかっ飛んでいるアタシを標的にして振りかぶられている。ヤバい!! このままでは直撃だ。


「させるか!!」


 眼前で、おじさんの飛び蹴りとケルベロスの前足がぶつかり合う。

 アタシは態勢を低くしてその下をくぐり抜けると、緑のマナを3つ、ケルベロスのお腹の下に設置して、そのまま反対側にすり抜けて素早く距離をとる。


「ほいっ!」


 今度はカンコさんが、大量の投げナイフを、ケルベロスの腹の下に設置する。

 大量の酸素と刃物、これをミライさんの炎の矢で爆発させて。ケルベロスに大ダメージを与える作戦だ。


 準備は整った。でも……


「おじさん!? おじさん!? 大丈夫!!」


 アタシは声を張り上げる。アタシをかばってケルベロスの前足に突っ込んだおじさんが気になって仕方がない。


「大丈夫だ。問題ない!!」


 おじさんの声だ。アタシはおじさんの無事にホッとする。でも、その後の言葉に仰天した。


未蕾みつぼみさん、そのままケルベロスを狙撃してくれ!」

「えええ!? おじさん、巻き込まれちゃうよ!!」

「腹に刺した義手が抜けかかっている!! 早くしないとケルベロスに逃げられる!

今しかない!!」

「わかりました!! え~い!!」

「おじさん? おじさん??」


 ゴォオオオオオオオオオオオオ! ドッグワーーーーーーン!!


 ミライさんの放った業火の矢が、ケルベロスにヒットする。アタシは素早く地面に伏せて、四散する義手や投げナイフから身を隠す。


 ゴォオオオオオオオオオオオオ!


 うねりのような爆音が響き渡って、あたりが振動をする。めちゃくちゃな破壊力だ。振動がおさまったのを見計らうと、アタシは身体を起こす。


 ケルベロスのいた場所からは、もうもうと煙がたちこめている。

 あの攻撃をモロにくらったら、幻獣といえどさすがに無事ではすまないはずだ。


 アタシは周囲を見回す。はるか遠くにミライさん。手前に盾で爆風をしのいだであろう田中さん、そして仁王立ちをしているカンコさんの姿が見える。でも……


「おじさん!?」


 まさか、爆風に巻き込まれて??


 「おじさん! おじさん!! 返事をして!!」


 アタシは最悪の想像をふりはらうように、もうもうと上がる煙にむかって叫び続けた。

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