元最強探索者のおじさん。美少女配信者を助けて大バズりしてしまった。

第136話 美少女、ケルベロスを誘導する。

「ギャンギャンギャンギャン！！」

「ガウガウガウガウガウガウ！！」

「バウワウワウバウワウワウ！！」

　アタシは、田中さんの背中にしがみつきながら、3頭のケルベロスを見張っている。

「田中さん、このまま、この高度とスピードを保ってください！」

「了解だ！」

　飛翔する盾で逃げるアタシたちの眼下を、ケルベロスが狂ったように吠えかかりながら走ってくる。

　高度を落としたトコロを、噛みつくつもりなのかな？　その足取りは、ずいぶんと余裕があるように見える。

　でも、これでいい。アタシたちの役目は、おじさんたちが待機する拠点まで、ケルベロスを誘導することだ。

「あれ？？　立ち止まった！！　刺さったショートソードを、引っこ抜こうとしてるみたい！」

　ケルベロスは、前足を振り回して、右の頭の右目にささったショートソードを地面に叩き落とす。乱暴に抜いたものだから、右目は完全にえぐれてしまって、鮮血が飛び散っている。

　バキィ！！　バリバリバリバリィ！！

　３頭は、ショートソードにかじりつくと、あっという間に食べ尽くしてしまった。

「ロカちゃん、今、ケルベロスは何をしている？？」

「えっと、田中さんのショートソードを食べました。お腹へってたのかな？」

「なんだって！？　くそ！！　ヤバいな……」

　ヤバいって、何が？　アタシが首をかしげたときだった。真ん中のケルベロスが大きく口を開くと、

　バシューゥゥゥ！！

　アタシたちに向かって銀色のブレスを吐き出した。

「ロカちゃん、しっかり捕まって！！」

「え？　え？　うひゃひゃあああぁぁぁぁ！！

　田中さんは、飛翔する盾を蹴り上げる。盾は角度を変えて真上に舵を切り、すんでのところで銀色のブレスをかわす。

「な、なんですかアレ？」

「ケルベロスのやつ、ショートソードに充満していた白いシェールストーンのマナを喰ったんだ！　さっきのブレスは鋼鉄の針の集合体。まともに喰らうと身体が蜂の巣になるぞ！」

「えええええ！」

　バシューゥゥゥ！！

　ケルベロスは、今度は左の頭から針のブレスを吐き出す。田中さんは盾を大きく旋回させてなんとかブレスを回避する。けれど、

　バシューゥゥゥ！！

　右のケルベロスは、まるで見透かしていたように連続で針のブレスを吐く。

「っぐ！！」

　田中さんは、身体をさらに逸らして、どうにかこうにか針のブレスの直撃をまぬがれる。けれど、

　プシュー！！

　針のブレスが、わずかにかすって、盾から緑色のマナがもれはじめた。

「やばいな、エアタンクをやられた！」

「うわわ　　ッうわわ　うわわ　　うわわッ　うわわ　　ッうわわ！」

　田中さんの盾がガクガクと揺れて、三半規管がシェイクされる。高度も明らかに落ちてきている。

「なんてこった！　拠点はすぐそこだってのに！！」

「アップドラフト！！」

　アタシは大急ぎで盾の進行方向に竜巻を出す。

「……田中さん、アレに飛び込んで！」

「わかった！！」

　アタシと田中さんは、竜巻で前方へと大きくはじきとばされる。

「もう一回いきます！！」

「わ、わかった！！」

　びゅおおおおぉ！！

　アタシたちは２つの竜巻でなんとか拠点近くまでとばされる。地上と天井が猛スピードで入れ替わるなか、あたしはかろうじて、なんだか叫んでいるおじさんを確認する。

　地面に衝突する瞬間、アタシはおじさんにお姫様抱っこで抱きかかえられた。

「大丈夫か、ロカ！！」

「う、うんなんとか」

　アタシは田中さんを見る。不時着をしてゴロゴロと転がっているところを、カンコさんが取り押さえていた。

「よくやった田中！　さあ、次の作戦行くよ！！」

　カンコさんは、オーバーオールの胸ポケットから、大量の黄色いシェールストーンをつかみ取って口の中に投げ入れると、まるでスナック菓子のようにシェールストーンをボリボリと噛み砕く。

「ふぁあ、ひなひゃい！　あぼふぇふぁんふぉ！！

　（さあ、来なさい！　暴れワンコ！！）」

「ギャンギャンギャンギャン！！」

「ガウガウガウガウガウガウ！！」

「バウワウワウバウワウワウ！！」

　カンコさんは、　ケルベロスの突進を素手で受け止めると、

「ぐぎぎぎぎ……どすこい！！」

　そのままケルベロスの首の皮をつかんで、右下手投げでぶん投げる。

　めちゃくちゃだこの人！！

「はっはっは！　国から選ばれた１０人の探索者のひとり、最硬（さいこう）の探索者、丙田（ひのえだ）カンコを舐めてもらっては困る！！　さあ、お師匠、田中。ビースト・ハントといこうじゃないか！！」