第135話 美少女、ケルベロスと遭遇する。
「それじゃあ始めるか。ロカちゃんは東側をたのむ。俺は西側から調べていく」
「わかりました! 田中さん」
探索班のアタシと田中さんは、手分けをして探索をはじめる。
うーん……それらしき影は見当たらないか。
「
アタシは、反対方向に竜巻を作り出すと、魔法陣のある拠点へと引き返す。
竜巻を行きに2つ。戻りに2つ。
無理はしない。あくまで安全な空中からケルベロスを探索する。
「ただいま!」
アタシは拠点で待機しているおじさんたちのもとにもどる。
「その表情だと、みつからなかったみたいだな」
「うーん、やっぱりそう簡単には見つからないねぇ」
「つかれたでしょー? はいこれ、ミライ特製スタミナドリンクー!」
拠点で待機している、おじさんとカンコさんとミライさんが、口々にリアクションをする。
「田中さんは?」
「田中くんの大盾は、ロカの竜巻よりも飛行距離が稼げるからな」
「ま、そのぶん、速度は断然ロカちゃんの方がはやいけど」
「あ、もどってきたー」
ブルルゥ…………
田中さんの大盾は上空でスピードをゆっくりおとして地面へと着地する。
「とりあえず、西側を探索しましたけど居ませんでした。それらしき痕跡もありません」
その後も、アタシと田中さんは都合3回のフライトをしたけれど、結局ケルベロスは見つからなかった。
「しゃーない。田中とロカちゃんには、もうちょっと奥まで探索してもらう必要がありそうだねぇ」
腕組みをしたカンコさんが「トン、トトトン、トトン」と、不規則なリズムで右手の人差し指で、左手のにの腕をたたく。
「ごめんなさい。アタシ、田中さんより飛行距離が短いから……」
「あ、メンゴメンゴ。ロカちゃんのせいじゃないし」
「次は、ふたりで協力して探索しよう」
ブルルンッ! ブルルンッ! ブルルブルルンッ!
「それじゃあ、もう一度行ってきます!!」
アタシは大盾に乗って、田中さんにしがみつく。
田中さんにダンジョンの中心辺りまで運んでもらって、そっからアタシが竜巻をつかって探索をする。
「じゃ、行ってきますから!」
「気を付けて、ロカちゃん」
「
アタシは小さな竜巻を8つ作ると、そのうちの1個に飛び乗った。
「
2個めの竜巻を作ったときだった。アタシは眼下に生き物の影をみつける。
「いた! ケルベロス!!」
むっちりとした肉付きの良い黒い肢体。短い尻尾、鼻ぺちゃの顔にコウモリみたいに尖った耳。
頭は1つしかないけれど、これは、他の2匹が眠っているから。
眠っている頭は身体の中に収納されるから、ぱっと見はフレンチブルドックとかわらない。でも、その大きさが段違いだ。全長2メートルはあるんじゃないかな?
「ふわぁあああ!」
ケルベロスは大きなあくびをすると、シュルシュルと身体の中に収納されて、別の頭が目を覚ます。
カワイイ!
身体がおっきくなっても、やっぱりまだまだ子供なんだ。アタシは、1年前の生まれたばっかりの頃を思い出してほっこりとする。でも……
「ギャンギャンギャンギャン!!」
頭が入れ替わったとたん、突然、アタシに向かって吠えかかりながら飛びかかっきた。アタシは、そのジャンプ力に愕然とする。
え!? ここまで届くの?
ケルベロスは、大きな口をあけて、よだれを垂らしながらグングンと近づいてくる。
やばい! やばい!! やばい!! 食べられる!!
アタシは大急ぎでポーチに入れていた閃光弾をケルベロスに向かって投げつけた。
「ギャン!!」
突然の閃光を受けて、ケルベロスは悲鳴をあげる。だけど、
「バウワウワウ!!」
ケルベロスは頭を入れ替えて、なおもアタシに噛みつこうと迫ってくる。
あ、これダメだ。食べられる……バカだなアタシ。。
おじさんにあれだけ油断するなって念を押されたのに、アタシは赤ちゃんの頃の姿を思い出して、ガッツリと油断した。
ザクゥ!
「ギャウうう!!」
銀色に輝く物体がアタシのそばを通過した刹那、ケルベロスの瞳に深々と突き刺さる。田中さんのショートソードだ。
「ロカちゃん、今のうちに!!」
「エ……
アタシは大急ぎでUターンすると、両手を広げた田中さんにしがみついた。
「急いで拠点まで逃げるぞ!!」
……ハァ……ハァ……ハァ……
「ギャンギャンギャンギャン!!」
「ガウガウガウガウガウガウ!!」
「バウワウワウバウワウワウ!!」
アタシは、田中さんにつかまれたまま、3つの頭を全部出して狂ったように追いかけてくるケルベロスを見つめる。その姿には、赤ちゃんの頃の可愛らしい面影は完全に消え去っていた。
これが、此の姿が、人の肉を喰らう、幻獣の本来あるべき姿なんだ。
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