第133話 美少女、最深層で第2の師匠と会話する。

 池の中に隠された魔法陣をぬけると、そこは全面むらさき色をした禍々しい景色だった。

 鋭角に尖った岩が地面からザクザクと突き出していて、近くを流れる川や池は血のように真っ赤に染まっていて、ぶくぶくと怪しいあぶくをだしている。そしてその池から噴き出したカスミが視界を悪くしている。


「ほえー、ゲームとかでラスボスがいる場所みたいー」


 ミライさんが感想をつぶやく。


「でも、力がみなぎってくる気がしませんか?」

「ほんとだー。リュックが軽いー」


 アタシの言葉に、ミライさんはうなづいて、ゴキゲンで反復横跳びをはじめる。


「ミライ、あんまり動き回らないほうが良い。このカスミはシェールストーンに凝固する前のマナだ。はしゃぎすぎると、すぐにバテてしまうぞ」

「え? そうなのー!? 気をつけるー」


 アタシが、ミライさんと田中さんがしゃべっている間、おじさんとカンコさんが、無重力カメラに向かって、なんだか険しい顔をして話している。


「それじゃ、鶴峯つるみね、合図を送った時点で、庚申こうしんの封印を発動してくれ」

『ああ、こっちは準備万端だ』

「本当に大丈夫なんだか……あたちゃ心配だね」

『僕も心配だよ。丙田ひのえだ君は、すぐにムキになって暴走するからね』

「むきゃー!! あいかわらず嫌味なヤツ!!!」


 ふたりの会話を聞いてピンと来る。この声、鶴峯つるみねさんだ!

 アタシは、無重力カメラに駆け寄って、画面の中の鶴峯つるみねさんに話しかける。


「お久しぶりです。鶴峯つるみね局長! 露花つゆはなロカです!」

『ん? 露花つゆはな?? ああ君か、田戸蔵たどくらの弟子とかいう』

「局長の仕事が忙しいにもかかわらず、1ヶ月近くもマンツーマンで修行をつけていただいて、本当にありがとうございました!!」

『なに、問題ないよ。僕の技を継承してくれて、こちらこそ感謝しているよ』

「そんな……光栄です」


 久しぶりに合う第2の師匠の鶴峯つるみねさんに話してると、しきりに首をかしげている人物がいる。カンコさんだ。


「ねえ、ロカちゃん、鶴峯つるみねに修行をつけてもらったのって、いつ頃?」

「ちょうど、春休みの期間です。3月中旬から、4月上旬まで」

「んんんん?? なあ、鶴峯つるみね。その頃っておまえ、故泉こいずみ大臣と一緒に、会談で世界を周遊してなかったか??」

『え、ええっと…………』


 ? なんだろう? 局長が言葉につまる。


『局長、この書類に捺印を』

『了解だ犯林おかばやし。すまないね。これから執務に取り掛かるから、一旦回線を切らせてくれ』


 プツン


 鶴峯つるみね局長からの無線が切れて、画面は、緋々色狒々ヒヒイロヒヒのスケロクのアイコンだけになる。カンコさんのアカウントだ。


「なんだ? あいつ?? 話をイキナリさえぎって」

「まあ。アイツも忙しいんだろう。そんなことより、ケルベロス封印作戦の最終確認をするぞ! 田中くん、未蕾みつぼみさん。こっちに来てくれ」

「はい」

「はいー」

「じゃあ、作戦の最終確認だ。ケルベロスは、3つの頭を同時に封印する必要がある。だから……」


 アタシは、おじさんの話を聞きつつも、さっきのカンコさんの話がずっと胸につっかえていた。


-その頃っておまえ、故泉こいずみ大臣と一緒に、会談で世界を周遊してなかったか??-


 確かに探索庁の局長さんが、駆け出しのJK探索者につきっきりで指導するなんて、そんなヒマなんかないよね。

 だとしたら、アタシに修行をつけてくれた鶴峯つるみねさんって……。


「こらロカ! ボーっとするんじゃない。話に集中してくれ」

「え? あ、うん、ごねんね、おじさん」


 確かにそうだ。今は自分に課せられたミッションに集中しなきゃ!!

 鶴峯つるみね局長のことを考えるのはあとだ。

 アタシは、作戦を説明するおじさんの話に全集中をすることにした。

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