第131話 美少女、大人の事情に口を出さないことにする。

 電車に揺られること20分、そっから歩いて5分。アタシは集合時間の8時10分前に裏鬼門うらきもんのダンジョンについた。

 アタシ以外は、みんなそろっている。


「おはようございます!」


 アタシはとびきりの笑顔であいさつをする。けれど、みんなの顔はとっても深刻だ。


「なにかあったんですか?」


 アタシの質問に答えたのはカンコさんだった。


「昨夜、カーバンクルランドに賊が入ってねぇ」

「えええ!? 大丈夫だったんですか? 数人かずとさんやハッちゃんたち!」


 カンコさんからのとんでもない報告にうろたえていると、おじさんが話をひきつぐ。


丙田ひのえだの留守を狙われることは、ある程度予想ができていたからな。こんなこともあろうかと、ヒサメたちに護衛を頼んでおいたんだ」

「ヒサメさん……たち? そっか! カノエさんが護衛をしてくれていたんだ! だったら、賊なんかへっちゃらだね!!」


 そう言ったときだ。とたんにみんな険しい顔になる。しばらくの沈黙の後、田中さんと鈴木さんが重い口を開いた。


「賊はしりぞけることができたそうです。ただ……」

霜月しもつきさんは、右足を切断する重症ッス……」

「え?」


 アタシは耳を疑った。カノエさんが? 右足を??

 信じられない。あのカノエさんが泥棒相手に遅れをとるだなんて。


「賊はヒサメと霜月しもつきさんが気絶させたあと、そのまま自爆したらしい」


 おじさんの言葉に、アタシはまたもや耳を疑う。

 自爆? え?? カーバンクルランドを襲った人が死んだってこと???

 この日本でそんな物騒な事件がおこるだなんて。


 アタシの頭が大混乱を起こすなか、おじさんは話をつづける。


「なぁ丙田ひのえだ、やはりカーバンクルランドの独立採算は無理があるんじゃあないのか? 鶴峯つるみねに頼んで探索長に護衛をしてもらったほうが……」

「冗談じゃない! 鶴峯つるみねの息のかかった組織に護衛を任せるだなんて、犯人に護衛をまかせるようなもんだよ! あたしゃ絶対に反対だね!」

「犯人?? カーバンクルランドを襲った賊は、鶴峯つるみねの差し金だっていうのか?」


 おじさんは怖い顔で、カンコさんをギラリとにらむ。


「ごめん、ごめん、お師匠。あたしゃもさすがに言い過ぎた! ……ただ、お師匠が探索庁から離れていた10年間。あの男が豹変したのは事実だよ。それこそ、人が変わったみたいにね」


 カンコさんはそこまで言うと両手でほほをピシャンとたたく、


「さあ! あたしゃたちは、ケルベロスの封印に集中するよ!! ややこしい話はそのあとだ!!」


 と、まるで自分に言い聞かせるように叫ぶと、地下13階層の魔法陣にずんずんと向かっていった。


 鶴峯つるみね局長は、アタシの今のバトルスタイルを伝授してくれた、アタシにとっては第二の師匠と言っていい人だ。

 アタシには終始ニコニコしていたし、エライ人だなんてとても想像できないくらい、とっても気さくな人だった。


 でも、なんだろう。胸の奥がザワザワする。

 だだのJKが考えて、どうにかなる問題じゃないのかもしれないけれど……。


 アタシは、すでに魔法陣の中で待機しているカンコさんのもとに早足で向かった。

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