第119話 謎の13階層。

 池の底の中の真っ赤な魔法陣で、アタシはうしとらのダンジョンの最下層の風景を思い出していた。

 でも、転送された場所は、第12層と同じ、見渡す限りの湿地帯だった。


 え? どういうこと??


「ん? なんかヘンっすね??」

「ここ、本当に最下層ですか? 『たつみのダンジョン』とはエライ雰囲気がちがうけれども」


 鈴木さんと田中さんがあたりを見回して怪訝そうな顔をするなか、ふたりの師匠のカンコさんが首肯する。


「そ、ここは最下層じゃない。どうやらごく最近できた階層のようだねぇ。田中ぁ! ちょっと肩をかしてくれ!」


 言うがいなや、カンコさんは巨体の鈴木さんの上にのじ登って頭の上に乗っかると、手を額にかざして周囲をぐるりと見渡した。


「あ、いたいた! コッチに向かって突進してくるよ。いやぁ~相変わらずキモいねぇ~。しかも今回のは一段と気持ちが悪い。お師匠、あと30秒くらいで遭遇するよ!」

「わかった。みんな、は俺と丙田ひのえだでケリをつける。手出しは無用としてほしい。いいな!」

「え? あ、う、うん」


 いつもとは違う、おじさんの凄みのある口調にうながされるまま、アタシは相槌を打つ。


「田中っちと鈴木っちと未蕾みつぼみさんも! いいね!!」


 カンコさんも田中さんの頭の上から、語気強めに念を押す。


「は、はい!」

「はいッス!」

「わかりましたー」


 カンコさんは、田中さんの頭の上で逆立ちをすると、そのまま地面に着地する。


「そんじゃ、お師匠! いつもの様に、お師匠のビームで肉壁を消し飛ばして、あたしゃがトドメってことで!」

「わかった」


 おじさんはカンコさんの作戦にうなずくと、左腕の袖をまくって白のシェールストーンを砕く。


「グロウアップ!」


 左腕の義手が黒く変色し、何倍へと肥大化する。


「あ! 見えた!! あれがモンスター??」

「なんだ? あの足の数は!!」

「めっちゃグロいッス!」

「ねー!!」


 その獣は、たくさんの足と手が生えていて、めちゃくちゃに前後させながらこっちへと向かってくる。

 肌は気味が悪いくらい紅潮していて、毛がほとんど生えていない。

 なんと言えば良いんだろう、粘土で作った人形を、ぐちゃぐちゃにくっつけた感じ??


「とこしかもどいおごた

 っろにゆううしかめか

 しした…たできーんし

 んてく…くもがさみま

 しくなうさい…ーんし

 ろれいまんい…んなね

 !!!!!!!!!!」


 ぐちゃぐちゃな身体で、むちゃくちゃに手足をうごかすバケモノは、めちゃくちゃな叫び声をあげながらこちらに突進してくるんだけれども、なんというか全然強くなさそうだ。

 これ、アタシでも楽勝で倒せちゃうんじゃないのかな??


 アタシは、思ったことを言ってみた。


「ねえ、おじさん。このモンスター、なんだか弱そうだし代わりにアタシが戦っても……」

「ダメだ!!」


 おじさんは、アタシが全てを言う前に言葉をさえぎった。ギロリと鋭い視線でアタシのことをにらみつけながら。


 ゾクリ……。


 アタシは怖くて背筋が凍る。


 おじさんは、獣に向き直ると、左手の義手に赤色のシェールストーンをたくさん入れる、そして、


「悪いな、お前たちに恨みはないんだがな……アトミックレーザー!」


 ちゅうちょなく極太のレーザーをぶっぱなした。


 地面をえぐりつつ直進をした極太レーザーをもろに浴びた獣は、跡形もなくきえさっている。でも、肉の焼けるイヤな匂いが周囲に充満をする。


 アタシは、焼け跡に目をこらした。タツノオトシゴ? のような顔をした虫が、ウネウネとうごめいて逃げ出そうとしている。


「ほい!!」

 ザシュ!!

「ひ、ひひひーん!」


 カンコさんの目にも止まらぬ投げナイフで、頭を串刺しにされたタツノオトシゴは、ウマのようないななきをすると、ウネウネと激しくうごめいている。

 その動きは、段々と鈍くなっていって、やがてピクリとも動かなくなった。


 ……あれ?


 アタシは、気になったことを聞いてみる。


「ねえ、おじさん。あの獣、シェールストーンにならないってことは、ひょっとして幻獣?」

「ああ……」

「そうなんだ! 幻獣って、ケルベロスのハッちゃんたちとか、カーバンクルみたいに、みんなかわいくってモフモフなものだと思ってた」

「……………………」

「アタシ、動物ならなんでも好きだけど、さすがにさっきのウマみたいなのはちょっとイヤかも」

「……………………」

「あれ? おじさん??」


 おじさんは、さっきからアタシの話をガン無視して、焦げあとに向かって目を閉じ両手を合わしている。カンコさんもだ。


 アタシやミライさんたちも、見様見真似で手を合わせてお祈りする。


 どれくらいたっただろうか。ずっと目を閉じていたアタシの肩を、おじさんがポンとたたく。


「そろそろ行こうか。この階層のどこかに最下層への魔法陣が出来ているはずだ」

「え? あ……うん」


 アタシはうなづくと、だまっておじさんの後を追いかける。さっきの幻獣のことは、もう、聞けるような雰囲気じゃあなかった。




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