第117話 美少女、イケメンとコラボ配信の約束をする。

「それじゃあー。お手々とお手々をあわせてー」

「「いただきまーす」」


 ミライさんの号令のもと、みんなが一斉にご飯を食べ始める。

 眼の前には、ダンジョンの中だなんてとても思えない、豪華な食事がならんでいる。

 ローストビーフに、北京ダック、三元豚のロースカツ。和洋中なんでもござれだ。

 イベリコ豚の生ハムに、くしに刺さったドネルケバブ、サンチュとセットの焼肉まである。イタリアとトルコに韓国料理、なんでもござれだ。食レポが得意なテレビタレントなら、


『お肉のバンコク博覧会や!』


なんて言い出しかねない。


「うひゃあ。ミライさん今日はいつにもまして豪華だね」

「らんふぉんのほぉふゅほふーふふふふんほはは、ひぃっふぁひふぁいふぉくふぉふははいとー」

(ダンジョンのボスを封印するんだから、しっかり体力をつけないとー)


 ミライさんが、口いっぱいにお肉をほうばって返答をする。

 うーん。このペースでいくと、このお肉たちほとんどミライさんのお腹の中にはいっていくんじゃないかな?


 あのちっちゃな身体のどこにそんなスペースがあるんだろう。

 そしてなんで太らないいんだろう(めっちゃうらやましい!!)


 探索メンバーのみんなは、めいめい食事をたのしんでいる。

 おじさんとカンコさんは、ふたりともとっても真面目な顔で話している。きっと、これからの作戦のことを話しているんだろう。


 田中さんと鈴木さんは、なごやかに談笑をしている。ボス戦前だってのに、ずいぶんとリラックスをしている感じだ。

(ミライさん負傷時に所属事務所に支払う契約になっている賠償金を、探索庁が肩代わりすることになったとかなんとかいってたけれどそのせいかな?)


 そして、たすくさんは……あれ? いない??

 アタシは周囲をキョロキョロと見回す。


 あ! いたいた!!


 たすくさんは、ぷよんぷよんの水面の上でひとり、遠くを見つめていた。

 アタシはぷよんぷよんの水面を歩いていって、たすくさんの横にちょこんと座る。


たすくさんは、食べないんですか?」

「探索中は、食事をとらない」

「え? 一度もですか?」

「ああ」

「本当に!? 未攻略のダンジョン探索って、一層一層、各階層ごとに探索する必要ありますよね?? アタシ、一週間くらいはかかると思ってた!」

「そんなに時間かからない。ここまでくるのに1日あれば充分」

「すごい! めちゃくちゃすごいじゃないですか! それ、配信すればバズるんじゃないですか? たすくさん、ダンジョン配信者になれば絶対人気でると思う!!」

「……なんで?」

「それはモチロン、たすくさんがめっちゃイケメンだからですよ! あたしなら一発で大好……」


 アタシは大慌てで口をふさいだ。あぶあいあぶない! たすくさんのこと、男の人として意識してるのがバレちゃう!!

 アタシは、首をひねるたすくさんのキレイな顔をみながら、慌てて会話の軌道修正をする。


「と、とにかく! 絶対人気出ると思うから! もしよかったら、今度コラボ配信やりましょう!!

「わかった……かんがえとく」

「約束ですよ!!」


 そう言ってアタシは、たすくさんの前に手を差し出すと、たすくさんはほんのちょっと表情を変えて、アタシの顔をまっすぐみつめながら、手を握り返してきた。


 アタシは、脈拍がバク上がりする。


(や、ややややヤバい! 手汗かいてきちゃった……)


「いやぁ、若いってのはいいねぇ!」


 振り返ると、そこには寝そべってニヤニヤと笑みを浮かべるカンコさんがいた。


「え? カンコさん、いつの間に??」

「いつも間にもなにも、みんなとっくに食事をすましてるんだけどねぇ。早くこの池の水を浮かして魔法陣に入れるようにしてくれないかい?」

「は、はい!!」


 アタシは顔をまっかにしながら、ぷよんぷよんの池を出る。

 たすくさんは、いつの間にかフードを目深に被っていて、その表情はうかがい知ることは出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る