第116話 美少女、春がおとずれ……る?

「そっかぁ! ミライさんと鈴木さん、つきあっ……むぐむぐむぐ……」


 アタシの口をふさいだのは、顔を真赤にしたミライさんだった。

 ミライさんは、声をひそめてアタシの耳元でささやきはじめる。


「ダメ!(ひそひそ) わたし、事務所から恋愛NGでているから(ひそひそ)」

「ええ? そうなんですか!?」

「だから(ひそひそ) 鈴木さんと付き合っていることが事務所にバレると、鈴木さんと一緒にダンジョン探索ができなくなっちゃう(ひそひそ)」


 なるほど……表立っては付き合っていることを公言できないけど、ダンジョン探索、それも深層地なら、周りにはほとんど人が居ない。文字通り地下でのお付き合いってことだよね。


「わかりました(ひそひそ) アタシ、絶対誰にも言いませから(ひそひそ) でも、せっかくだから、馴れ初めなんか聞いてみたいなー♪(ひそひそ) どっちが告白したんです??」

「えー?(ひそひそ) それ言わなきゃダメー?(ひそひそ) えへへーわたしからー(ひそひそ) ダンジョン探索で、いつも、わたしのこと気遣ってくれるからー(ひそひそ)」

「へぇ。田中さんじゃ、ダメだったんですか?(ひそひそ) タイプじゃなかったとか?(ひそひそ)」

「田中さんはもう結婚してるよー(ひそひそ) 3歳の男の子もパパなのー♪(ひそひそ)」


 ミライさんは、嫌がるようなそぶりをしつつも、めっちゃペラペラと話してくれる。そうだよね。アタシももし彼氏が出来たら絶対誰かに話したいもん。


「ロカ! 未蕾みつぼみさん! ここで昼食をとっておこう。最深層では何が起こるかわからないからな!」

「「はーい!!」


 おじさんに呼ばれたアタシとミライさんは、ぷよんぷよんの水面をぴょんぴょんとジャンプしながら水面のふちへと移動していく。


 あれ? なんだろう、視線を感じる……。


 アタシは後ろを振り向いた。フードをかぶったたすくさんの後ろ姿が見える。てっきり、たすくさんの視線だと思ったんだけど……気のせいか!


 ぷよん、ぷよん、ぷよん!!


「「ジャーンプ」」


 アタシとミライさんは、ぷよんぷよんの水面から思い切りジャンプして、地面へと着地する。

 すぐ横に、たすくさんが立っている。え? いつの間に??

 たすくさんは、火起こしをしているおじさんの背中に声をかける。


「じゃあ田戸蔵たどくらさん、任務は終わったんで、俺はここで」

「どうした? たすくくん、君も食べていけばいいじゃないか」


 たすくさんを引き留めようとするおじさんの言葉に、ミライさんとアタシも賛同する。


「そうだよー。ごはんはみんなで食べたほうが楽しいよー」

たすくさん、飯テロ配信の第一人者、ミライさんの作ったランチが食べれるんですよ!! 食べなきゃ絶対後悔しますって!!」


 アタシは、帰ろうとするたすくさんの腕をつかむと、逃げられないように両腕をからめて身体を密着させると、みんなのもとへとグイグイひっぱっていく。


「え? あ、あのちょっと……」

「ホラホラ、楽しい休憩タイムなんだから! フードなんか被ってないで!!」


 アタシは、たすくさんのフートをむんずとつかむ。


「え? あ、あのちょっと……」


 戸惑うたすくさんをガン無視して、強引にフードを引っ剥がすと、たすくさんの素顔があらわになった。


「え?」


 その姿は、アタシの想像とは全く違っていた。年は20歳そこそこ? ふわふわとしたミルクティーのような髪色と、キメの細かい肌。そして、スッキリとしてどこか色気がただよう切れ長の瞳。

 まるでアイドル? ってくらいのスーパーイケメンだ。


 アタシが、たすくさんのトンデモナイ顔面偏差値に見とれていると、たすくさんはあわててフードを目深にかぶって、


「あ、あの田戸蔵たどくらさん、火起こし手伝います」

 

 と、逃げるようにアタシの前を去って行った。


「あ、あんなイケメンに、身体を密着させちゃった……」


 アタシは、さっきの軽率な行動を思い出して、顔が真っ赤になる。心臓がドクドクと波打っているのがわかる。


 ひょっとしたら一目惚れ? アタシって実は面食いだったんだ。


 アタシはアタシの、自分でも知らなかった自分の感情を、思い切りえぐって眼の前にさらされたような気がした。



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