第115話 美少女、ぷよんぷよんの水面の上でハッとする。

「着いた。最下層への魔法陣」


 たすくさんが指さした方向には、蓮の花が咲き乱れる小さな池が、きれいな水をたたえているだけだった。


「あれ? 魔法陣なんてどこにも無いっスよ?」

「ねー」


 鈴木さんとミライさんが仲良く首をかしげるなか、カンコさんと田中さんが返答をする。


「最下層の魔法陣ってのは、パッと見ではわからないように隠されているもんだよ」

「師匠の言う通り。一般の探索者に、そうやすやすと探索されてはたまったものじゃないからな。ってか鈴木! おまえは師匠の物資配達で、『たつみのダンジョン』に何度も足を運んだろう!! なんで覚えてないんだ!?」

「あ、そういえばそんなこともあった気もしなくも無いっス! でもあのときはたしか大岩の下だったはずっスよ?」

「そーなんだー。でもー大岩なんてどこにもないよー?」


 鈴木さんとミライさんが仲良く首をかしげるなか、アタシが話に加わる。


「最下層に通じる魔法陣は、この池の底です! ですよね、たすくさん!」

「な、なんだってー!」

「な、なんだってー!」


 盛大におどろく鈴木さんとミライさんをよそに、アタシはたすくさんの方を向く。


「ああ。魔法陣はこの下。でも、俺は魔法陣の存在を目視では確認をしただけ。魔法陣には入っていない。青と緑のシェールストーンの合成術を習得していないから」


 たすくさんは突然だまりこむと、おもむろにアタシの方を向く。


「え? 何々?」

「………………………………………………」

「アタシの顔になにかついてる?」

「………………………………………………」

「え、えっと……」

「………………………………………………」

「………………………………………………」


 え? どういうこと??


 たすくさんの表情は、フードに完全に隠れていてさっぱり見えないけれど、視線が突き刺さっているのが痛いほど解る。


 ど、どうすればいいんだろう。


たすくくんは、ロカに青と緑のシェールストーンの合成術を使ってもらいたいんじゃないのか? おまえなら出来るだろう?」


 おじさんの回答に、たすくさんはコクリとうなずき、ぼそぼそとつぶやく。

 

「最下層に進むには『コーティング』と『フロート』が必要」

「あ! そういうこと!!」


 納得がいったアタシは、腰にぶら下げたシェールストーン製の指揮棒を取ると、ポーチのボタンをカチカチと2つ押してから、指揮棒を慎重に慎重にあやつって、かぎりなく真円の緑と青のマナの塊を作り出し、池へと投げ入れた。


 池の水はたちどころにコバルトブルーへと変色していく。


「わー。キレイないろー!」

「パねえッス!!」

「………………………………………………」


 ミライさんと鈴木さんが感嘆の声をあげるなか、アタシは水面に手を当てて集中する。そして、


「コーティング!」


と、叫んだ途端、ターコイズ色の水面が発光する。


「ん? 光った以外、なんにも変わって無いみたいッスけど」

「ねー」


 鈴木さんとミライさんがなかよく首をかしげるなか、たすくさんが迷うことなく池の中へと足を踏み入れると、ボヨンボヨンとはねながら池の中心へとすすんでいく。


「なんだってー!? 水の上に浮かんだ!!」

「すごーい♪」

「青と緑のシェールストーンの合成術、コーディングだよ。水面を人間をダメにするクッションみたくプルンプルンにするの!!」


 そう言って、アタシはターコイズ色のプルンプルンの水面にダイブする。


 ぽよよよ~ん!!


「んー♪ コレコレ!! クセになっちゃう気持ちよさ!! ミライさんと鈴木さんも乗ってみてよ!」


 アタシの誘いに、ミライさんと鈴木さんはおそるおそる水面に立つと、


「キャア!」


 慣れないプルンプルンの地面に、ミライさんが体制を崩す。


「危ないミライ!!」


 鈴木さんの動きは早かった。倒れたミライさんをすかさずお姫様だっこする。

 

「怪我はないッスか??」

「うーん。大丈夫~♪」


 そう言うとミライさんは、鈴木さんに「ギュッ」としがみつく。


「おやおや? 地面はぷよんぷよんだから、怪我なんてしないと思うがねぇ」


 カンコさんが、池の淵でニヨニヨと抱きついているふたりを冷やかすと、鈴木さんは大慌てでお姫様だっこしたミライさんをぷよんぷよんの地面に置いた。


「いやぁ、若いってのはいいねぇ!」


 ニヨニヨが止まらないカンコさんを見て、アタシはハッとする。


「そっかぁ! ミライさんと鈴木さん、つきあっ……むぐむぐむぐ……」


 アタシの口をふさいだのは、顔を真赤にしたミライさんだった。

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