第108話 おじさん、元弟子と再開する。

「あっ……と! こんなところで立ち話もなんですよね! 園内にご案内します」


 かぞえくんの一声で俺たちは我にかえる。ついつい逆村さかむらさんの話題でもりあがってしまった。


 俺たちは、かぞえくんの後について、カーバンクルランドの中へと入る。園内は、周囲をぐるりと広葉樹に囲まれている。マナを吸収して育つマナグローブの樹だ。カーバンクルや、ケルベロスたち幻獣が吐き出すマナを吸収して根に養分を送ることで、地下にダンジョンを生み出すことができる。

 そう、このカーバンクルランドは、幻獣を飼育する施設であるとともに、安全かつ人工的にダンジョンを運用する施設でもあるのだ。


 カーバンクルはちょうど朝ごはんを食べているところだった。


 かぞえくんとおなじ、赤いオーバーオールに麦わら帽子すがたの、オカッパ頭の小学生くらいの女の子と、髪の毛をふたつのシニョンでまとめた高校生くらいの少女ふたりが、20匹くらいのカーバンクルに、くだものと野菜を与えている。


「カンコちゃん、コヨミちゃん! 田戸蔵たどくらさんたちをお連れしてきたよ」


 すると、カンコと呼ばれた少女が、すっくと立って返事をする。


「お師匠、お久しぶりです!!」

「おまえ、本当に丙田ひのえだか? 電話で聞いていたが……本当にえらく若返ったな」

「はっはっは、師匠は巨乳好きですからねぇ」


 この軽口。姿はすっかり幼くなっているが、間違いなく丙田ひのえだだ。

 俺は丙田ひのえだに端的に目的を説明する。

 

「話は聞いていると思うが、鶴峰つるみねから裏鬼門うらきもんのダンジョン制圧の任務を請け負ってな。お前の『自己の力』を借りたい」


 丙田ひのえだは、俺の話を聞くなり険しい顔をして、腕組みをした右手の中指をトン、トトトントンと、不規則にたたきはじめる。

 鶴峰つるみねと聞いて、不機嫌になったのだろう。


「なるほど? あたしゃの大嫌いな鶴峰つるみねからの案件にもかかわらず、師匠がわざわざあたしゃをダンジョン探索に誘うってことは、師匠だけじゃあ前衛がたらないってことだねぇ」

「ああ。もうひとり、有能な盾使いに声をかけている」

「壁役が3人も必要ってことは、やっぱりダンジョンの主は……」

丙田ひのえだ、お前の考えている通り。このカーバンクルランドにいるケルベロスの双子のかたわれだ」


 俺の言葉に、丙田ひのえだは「やっぱり」と小さくため息をつくと、賑やかなこえがする方向を見る。

 そこには、ロカやササメたちにフルーツをもらい、ご機嫌に短い尻尾をピコピコとシッポを振っている、頭が3つある幻獣ケロベロスがいた。

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