第102話 おじさん、テレビに見切れつづける。

田戸蔵たどくら小次郎こじろう隊長と精鋭メンバーは、裏鬼門うらきもんのダンジョン探索をします。つまり、ダンジョンを封印するということです』


「えええ!? おじさん、ダンジョン探索者は引退したんじゃなかったの!?!?」


 故泉こいずみ大臣の表明にビックリしたアタシは、ソファから身を乗り出すとローテーブルの上に乗ってテレビにかじりつく。


「ちょ! ロカ! お願いだからとにかく服を着てくれ!!」


 パパの声が、あたしのおしりの方から聞こえてくる。

 うん……さすがにこれは、恥じらいがなさすぎる……かな?


「わかった!!」


 故泉こいずみ大臣があんまり中身がなさそうな話をしている間に、アタシは大急ぎで自分の部屋に戻ってパーカーを着込んでリビングにもどる。

 テレビでは、鶴峯つるみね局長が、わかりやすくおじさんの経歴を説明しているところだった。


田戸蔵たどくら隊長は、15年前、うしとらのダンジョンを攻略した探索隊のリーダーを努めた人物です。これ以上の適任はいないかと』

『『おおおおぉ!!』』


 記者たちのざわめきが聞こえる。今まで世の中に伝わっていなかったおじさんの経歴が日の目を見て、アタシもちょっと誇らしい。


『週間文醜ぶんしゅう邪間よこしまです。

 確かに、うしとらのダンジョンを制圧した経験はすばらしいと思いますが、それはもう、15年近く前のことでしょう? 田戸蔵たどくらさんの容姿を拝見するに、明らかに中年に差し掛かる年齢です。身体的な不安があると言わざるを得ませんが?』


 うわ! やな質問!! 週間文醜ぶんしゅうってあれだよね。あること無いこと、やりたい放題に書きまくって雑誌の売上を伸ばしている悪徳週刊誌だよね。

 記者会見場がざわつくなか、鶴峯つるみね局長は、週間文醜ぶんしゅうの記者の一言一言にうなずいて聞いたあと、ゆっくりとマイクを取る。


『ご質問ありがとうございます。おっしゃるとおり、田戸蔵たどくら隊長がうしとらのダンジョンを攻略したのは15年も前。ダンジョン探索からも、ここ10年くらい現役を退いておりました。

 ですが、田戸蔵たどくらは、今年より後進の育成のため、現役復帰しております。希望者をつのり、実戦形式の模擬戦を行っておりますが、田戸蔵たどくらの戦績は54勝無敗。現在においても、現役最強の探索者のひとりと言ってもさしつかえないと思いますが?』

『『おおおおおおおぉ!!』』


 鶴峯つるみね局長が週間文醜ぶんしゅうの記者の質問を完膚かんぷなきまでに論破すると、記者会見場がざわめきにつつまれる。

 そして、再び鶴峯つるみね局長が話を始めると、記者たちは一気に静まりかえった。


『探索メンバーは遅くとも今月中には選定を完了し、メンバーが決まり次第、裏鬼門うらきもんのダンジョン制圧作戦を開始いたします』


 鶴峯つるみね局長がしゃべり終えると、


田戸蔵たどくら隊長、今回の作戦にあたっての意気込みは?』

『すでに探索メンバーに心当たりはあるのでしょうか?』

『10年間、ダンジョン探索から離れて一体何をしていたのですか?』


 と、記者たちがおじさんに向かって、次々と質問をなげかける。

 今までずっと見切れていたおじさんが、テレビに大写しになるなか、おじさんは表情ひとつかえていない。


『悪いが、田戸蔵たどくら隊長は、すでに今回の作戦に集中しているのでね。質問は、私と故泉こいずみ大臣のみにお願いできますか?』


 鶴峯つるみね局長の言葉を聞くと、記者たちは一斉に鶴峯つるみね局長に質問を投げかける。故泉こいずみ大臣はガン無視だ。

(まあ、故泉こいずみ大臣に質問しても、謎構文で返されるだけだからしかたがないとおもうけど)


 アタシは、テレビの中で再び見切れたおじさんを見つめながら、強く強く思った。

 アタシも、選抜メンバーとして、裏鬼門うらきもんのダンジョンを探索したい!!

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