第103話 美少女、未攻略ダンジョン探索を希望する。

 アタシは、テレビの中で見切れつづけるおじさんを見つめながら、強く強く思った。選抜メンバーとして、裏鬼門うらきもんのダンジョンを探索したい!!


 アタシは、ガリガリとコーヒー豆を手動のミルで挽いているパパに話しかける。


「ねえ、パパ! お願いがあるんだけど!!」

田戸蔵たどくらさんに着いていくんだったら絶対にダメだぞ」


 パパは、憮然とした表情でアタシのお願いをシャットアウトすると、マグカップの上にセットしたコーヒーフィルタに、コーヒーの粉を神経質に移し替え、電気コンロにかけていたポットを取って、ほんの少しだけお湯に注いだ。

 お湯で蒸れたコーヒーのいい匂いが、リビングにもただよってくる。


「ええー! どうして!?」

「危険だからに決まっているだろう!!」


 パパは、充分に蒸らしたコーヒーの粉に、注意深くお湯をそそぐ。料理とかなんにもできないのに、コーヒーにだけにはやたらとこだわる。会社でも自分で淹れているらしい。


「大丈夫だって! パパ、忘れたの? アタシ、ダンジョン最下層を探索できる、ネイビーライセンス持ちなんだよ?」

「そのネイビーライセンスで最下層にいったのは一度きりだろう。それに、ロカが行ったのは制圧済みのうしとらのダンジョンじゃないか。

 壬生みぶさんが言ってただろう? 制圧済みとそうでないダンジョンとでは危険度が格段に違うって」

「う……それは、そうなんだけどさ……」


 わかってる。パパはアタシのことを心配してくれてるんだ。

 それは、とっても嬉しい。

 そして、嬉しいと感じている自分の心境の変化に、アタシは改めてビックリした。去年の今頃なら、パパにダンジョン探索したいってお願いをするなんて絶対にしなかったと思う。昔のアタシなら、パパに無許可で無理やりおじさんについていってたと思う。


「まあ、ロカが行きたいって気持ちは分からないでもないがな」

「え!?」


 おどろくアタシの顔をみながら、パパは、コーヒーをすすりながらリビングのソファに座る。


「この新しくできたっていう、裏鬼門うらきもんのダンジョンの主は、ケルベロスの赤ちゃんなんだろう?」

「うん。断言はできないけれど、多分……」

「なるほどな、ロカはそれを確かめに行きたい訳か」


 パパは、コーヒーをローテーブルに置くと腕組みをして考え事をはじめる。

 そりゃそうだ。命の危険がある探索なんだもの。

 パパは、テレビを見る。記者からの質問に流暢りゅうちょうに対応する鶴峯つるみね局長と、さっきからずっと半分見切れつづけるおじさんを交互に見つめながら、うんうんとうなづいている。そして、


「わかった。パパはロカのことを停めないよ」

「ホント!?」

「ああ、会見の話を聞く限り、探索メンバーは田戸蔵たどくらさんと、探索庁の長官が直々に選定するようだからな。もし、ロカが選ばれるのなら、その実力を備えているってことなんだろう。門外漢が外野からとやかく言っても仕方がない」


 そう言うと、パパは渋い顔をしながらコーヒーをすする。


「やったあ! パパ、ありがとう」


 アタシは嬉しくって、バンザイをする。それを見たパパが、突然、


「ブハッ!」


 と、コーヒーを吹き出した。

 え? どういうこと??

 パパは慌ててローテーブルに置いたティッシュを引き抜きながらそっぽを向く。


「ごほっ! ごほっ!! ロカ、いいから下着を穿いてこい!」


 あたしは、下を見た。

 バンザイをしたアタシは、下半身が丸見えのモロ見えになっている。

 アタシは大急ぎで2階の自分の部屋へと向かった。

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