第98話 おじさん、子育てに追われる。

「おぎゃーおぎゃー」

「ほぎゃーほぎゃー」

「ふぎゃーふぎゃー」


 赤ちゃんの朝は早い。というか、朝晩関係なく、お腹がへったら泣くのが仕事だ。

 俺とササメは飛び起きると、ササメは母乳を飲ませ、俺は三人分のミルクを用意する。


「ほらほら、三郎さぶろう。お前は先にこいつを飲むんだ」


 俺は、三つ子唯一の男の子の三郎さぶろうの口元に哺乳瓶の吸口を近づける。三郎さぶろうは、必死に哺乳瓶にしゃぶりついて「んくんく」とすごい勢いでミルクを飲む。


「ほら、終わりだ。残りは、お母さんからもらいなさい」


 ミルクは一人前のちょうど半分。残りはササメの母乳を飲む。

 俺はササメに三郎さぶろうを預けると、交換で次女のフタホを受け取ってミルクを飲ませ、飲みきったフタホを抱っこすると、トントンと背中をやさしくたたく。


「ぷぱぁ」


 フタホが可愛らしいゲップをすると、最後にササメから長女のイチノを受け取る。

 そうして、みたびミルクを飲ませると、抱っこしてゲップをさせる。


 ササメと三つ子が退院して一週間。

 最初は抱っこするのもおっかなびっくりだったが、今ではオムツの取替えも、お風呂に入れるのも慣れたもんだ。


 まるで戦争のような授乳タイムを終えた俺達は、イチノとフタホ、そして三郎さぶろうをベビーベッドに寝かせる。


「すぴぃーすぴぃー」

「すぷぅーすぷぅー」

「すぽぉーすぽぉー」


 我が子三人の寝顔を見て、俺は得も言われぬ足感を得る。

 気のせいだろうか。まだ生まれて二週間近くしかたっていない我が子のことを、もっとっもと前から知っていたような気がする。


「ねぇ、小次郎こじろうさん」

「? なんだいササメ」

「ワタシ、これからおかしなコト言っちゃうかもしれないけれど、笑わないでね?」

「?? どういうことだ?」

「あのね、この子たちのことを、もうずっと前から知っているような気がするの。へんよね?」

「そんなことないさ。俺もそう感じる。なんでだろうな」

「ワタシね、この子たち、うしとらのダンジョンに封印されていた、ケルベロスの生まれ変わりなのかなって気がするの」

「は? ケルベロスの生まれ変わり?」

「だってほら、ワタシたちの子供も、男の子ひとりと、女の子ふたりだから」


 ササメの突拍子もない言葉に、俺は思わず苦笑いをする。


「あぁ~! やっぱり! 顔がイヤな感じに、にやけている!!」

「す、すまない。つい……」


 俺は、ふくれっつらをするササメの横顔を見ながら平謝りをしつつも、そう思う気持ちも解らないでもないなと考えを改める。

 ササメは、うしとらのダンジョンで15年近く、ケルベロスたちを見張っていたんだ。俺なんかよりも思い入れがあるのは当然だ。


 とはいえ、いくらなんでもメルヘンが過ぎやしないか? T大大学院出の才女にしては非科学がすぎる。

 俺は、その非科学的な意見に対するツッコミをぐっとのみこむと、かわりに大きなあくびが出る。

 そんな俺を見ながら、ササメは大きく伸びをしてから話しかける。


「さあ、ワタシたちも、もう寝ましょう。4時間後にはまた嵐のように忙しくなっちゃうから」

「だな」


 ササメはそそくさと布団に入る。俺もササメに習い布団にもぐり込むと、あっという間に眠りへと落ちていった。

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