第96話 おじさん、探索庁のトップに呼び出される。
ポーン
64階に到着したエレベーターが開くのを待っていると、直角90℃でお辞儀をしている濃紺のスーツ姿の青年がいた。
「
局長室にご案内いたします」
ピシッと三つ揃えのスーツを身にまとい、髪の毛に整髪料をてかてかになでつけて、襟にはダンジョン書士のバッジをつけている。
探索庁長官、
「
「ありがとう。お入りいただきたまえ」
「失礼いたします」
「
「探索庁のトップ直々の電話となれば、断るわけにはいかないだろう」
「本当はメールで伝えたかったんだが、君の機械音痴は天然記念物ものだからね」
「悪かったな天然記念物で。これでも今はスマホを使いこなせるようになったんだぞ」
「それはそれは。ササメくんに感謝しないとな」
俺はソファに座るなり開口一番先手を打った。
「探索チームには加わらないぞ、ササメが出産間近なんだ。この1ヶ月はできるだけそばにいてやりたい」
「わかったわかった。その件は充分に理解しているよ。その証拠に今月からは模擬戦を依頼してはいないだろう?
今回、君を呼び出したのは、探索チームの選抜をしてもらいたいからだ」
「選抜、というと?」
いぶかしがり首をひねる俺に、向かって
「君にこれまで出張を依頼して戦ってもらったのは、全員ネイビーライセンス所持者。模擬戦をしてもらい、君に実力を測ってもらっていたんだよ」
「なるほど?」
「これが、君が模擬戦を行った探索者一覧だ。この中からメンバーを選抜し、小隊を組んでケルベロス制圧の任務にあたってもらう」
「なるほど、やはりダンジョンの主は、
「ああ。子供とはいえ、相手はケルベロスだ。充分な戦力で対峙しないと、封印は不可能だろう」
「なるほど……」
俺は、
「これで全員か? 何人か欠員がいるようだが……
「ああ。すでにスケジュールが埋まっている人物は選抜メンバーから外したよ。なにしろこのご時世だ。無理やり任務を押し付けたらハラスメントとか言われかねない」
「電話一本で俺のことを呼びつけた人間が、よく言うよ」
「はっはっは、昭和世代には生きづらい世の中になったもんだよな」
俺は、資料をひととおり眺めると、
「いつまでに判断すればいい? 悪いが書類を持ち帰って検討したいんだが」
「できれば今週中。わざわざもう一度来てもらうのもなんだから、ササメくんに資料を送っておくよ。選抜メンバーの選考が終わったら、ササメくんに伝えてくれ。ササメくんからメールを受け取るよ」
「よくわからないがわかった。ササメに伝えればいいんだな」
「ああ」
「わかった。もうひとつ質問なんだが、本当にこのメンバーからしか選べないのか?」
「なにか問題があるのかい?」
「い、いや、大丈夫だ。週末までだな? それまでには連絡する」
「はっはっは、よろしく頼むよ。俺はずいぶんと昔に現役をしりぞいたからな。もう戦闘についてはさっぱりだ。
「…………わかった。とりあえず、今日はもう失礼するよ。お昼はササメと一緒に半熟タマゴをたべるんでな」
この2週間後、俺は自分の軽率な判断を激しく後悔をすることになる。
ケルベロス探索メンバーが、全滅したと報告を受けたからだ。
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