第90話 おじさん、ダンジョン残業をする。

「それじゃー、今日の配信はここまで。最後まで観てくれてありがとう♪ チャンネル登録よろしくねー!」


 未蕾みつぼみミライの可愛らしい声で、配信が終了する。

 俺は絶品キャラメルミルフィーユをゆっくり、しっかりと味わうと、レジャーシートから立ち上がる。


「それじゃあ、俺はこれで……」


 今の時間は午後一時半。今から急いで帰れば、ササメと一緒に晩御飯を食べることができる。だが、


「え!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ田戸蔵たどくらさん!」

「そうっスよ! まだ仕事は終わってないっス!!」


 田中くんと鈴木くんが、立ち上がった俺を大慌てで引き止める。仕事が終わってないってどういうことだ??

 田中くんが説明をはじめる。


「探索庁で、田戸蔵たどくらさんとの模擬戦を予約して、1週間がたったころかな? 突然、ミライのスマホに局長から電話があったんです」

「局長? 鶴峰つるみねからか??」


 首を傾げる俺に、未蕾みつぼみミライがのんびりした口調で話をひきとる。


「はい。なんだか局長さんから突然連絡があってー。ロカちゃんのADさんに戦闘のアドバイスをしてもらいなさいってー。

 君の隠された才能を、きっと田戸蔵たどくらさんが発掘してくれるよってー。おねがいできますか?」


 未蕾みつぼみミライはニッコリとわらって俺の両手をとる。


「あ、は、はい。わかりました」

「わあー。ありがとうございます!!」

「俺ができることなんかたかが知れていると思うのですが、できる限りのことはやってみます」

「よろしくおねがいしますー。あ、でもその前に、残りのグランドキャラメルミルフィーユを食べきっちゃいますねー」


 そう言うと、未蕾みつぼみミライは、レジャーシートにちょこんと座り、猛烈なスピードでキャラメルミルフィーユを食べ始めた。巨大なミルフィーユは、みるまに胃袋の中に収まっていく。とんでもない健啖家けんたんかだ。

 俺は、未蕾みつぼみミライの食べっぷりに驚愕きょうがくをしながらスマホをとりだすと、ササメにメッセージアプリを送る。


《きょうはおそくなるます。さきにごはんたbでください》


 メッセージを送ると、すぐにササメからウサギのキャラクターが「OK」をしているスタンプとともに《お仕事がんばってね!》のメッセージが添えられる。


 うん。めっちゃ、やる気が出た。

 ……だが、うーん、どうしたものか。


 俺は巨大なキャラメルミルフィーユをたいらげて、ニコニコしながら「ごちそうさまー」と両手を合わせる未蕾みつぼみミライを見ながら頭をかいた。

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