第89話 幕間劇。ふたりの閲覧者。
男は執務室のソファに座り、ノートPCで動画を見ていた。
三つ揃えのスーツで、頭を整髪料でテカテカに撫で上げている男は、無表情で瞬きもせずじっと動画をみている。
そして、ソファの後ろから、男の様子をニコニコしながら眺めている男がいた。
ふたりが居るのは、探索庁の局長執務室。
三つ揃えのスーツの男は
ソファの後ろに立っている男は、
探索庁の局長と、その秘書が見ているノートPCには、みっつの動画が表示されている。
ひとつは、巨大なミルフィーユが映っている動画、もうひとつは、砂嵐の映像。
最後のひとつは、小柄な女性と、男性3人が、仲良くミルフィーユを食べている動画だった。
男性のうちひとりは、近未来的なサングラスをかけてアゴに大きなあざをつくり、もうひとりは、顔面のいたるところにすり傷をつくっている。そして最後のひとりは、画面から見切れて、もくもくとミルフィーユを食べていた。
「それじゃー、今日の配信はここまで。最後まで観てくれてありがとう♪ チャンネル登録よろしくねー!」
小柄の女性が可愛らしく両手をふり、サングラスをかけたあざ顔と、顔面傷だらけの男も、女性に合わせて手を振る。画面から見切れた男は、もくもくとミルフィールを食べているまま、動画は終了し、ほどなく、もうひとつの動画も終了する。砂嵐の動画は、そのまま砂嵐を流し続けていた。
ソファに座っている
「どうだった、
「さすがですね、ネイビーライセンスのふたりを相手取って、終始危なげない戦いぶり。ピンチらしいピンチは、閃光と氷のトラップのコンボくらいでしょうか」
「ああ。それも事前に察知して被害を最小限にとどめている」
「なんというか、現実を思い知らされますね。探索者の熟練度は、シェールストーンを使いこなし方に現れるといいますが、結局のところは判断力とフィジカルがものを言う」
「まあ、否定はしないよ。
「審美眼……ですか?」
「そう、審美眼さ。しかも一見探索者にふさわしくないような、異端の能力者の才能を開花させる。
たとえば、
きっと、彼にかかれば
プルルルル……プルルルル……
話をさえぎるように、電話の着信音が鳴った。
「ふはw 局長、今週の進捗を報告しますw」
「これはこれは、
「局長が定期的にエサを手配してくれるおかげで、順調に育っていますよw」
「そうですか、それはなりより。もう少しすれば、その幻獣は新たなダンジョンを生成するはずです。そうすれば、新鮮な食材を思う存分、食べさせることができるでしょう」
「ふはw めっちゃ楽しみww それじゃあ、また来週進捗を報告しますねww」
ピッ
「まったく、彼はいい趣味をしているよ。探索者を襲って食べる幻獣を、喜んで飼育するなんてな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます