第88話 おじさん、模擬戦に決着をつける。

 ブオオン! ブオオォォォォォォォン!


 大楯に乗った田中くんは、俺の手前で90度旋回すると、慣性の法則に従って、その勢いのまま右手のショートソードを袈裟斬りに振り下ろす。


 ガギィィィン!!

「ぐっ!」


 スピードに乗った斬撃を、俺は義手でうけとめる。身体の芯に響く重い重い斬撃だ。

 左足を負傷した今、あの猛スピードの攻撃をかわすのは至難のわざだ。田中くんは機動力に劣ると踏んで実行した戦術が、見事に裏目に出た格好だ。


 ブオオン! ブオオォォォォォォォン!


 田中くんはUターンをすると、ふたたび突っ込んでくる。

 俺は左足をひきずって岩陰へと避難する。あんな攻撃をなんども受けたらひとたまりもない。


 ブオオォォォォォォォォォォォン!


 すると田中くんは、大きく旋回して俺が隠れた大岩に、大楯の船尾せんび(と言えばいいのかな)思い切りぶち当ててきた。


 ドガァァ!!

「んなっ!?」


 大楯の船尾を喰らった大岩が、木っ端微塵こっぱみじんに吹き飛んだ。

 俺は大量の石つぶてから少しでもダメージを防ぐため、身体を丸めて急所を防ぐ。

 なんちゅう威力だ。あんな攻撃の直撃を受けたらひとたまりもない。


 が、田中くんのおかげでこちらにも反撃用の武器ができた。

 そう。岩を砕かれてできた大量の石つぶてだ。


 俺は手頃な石を拾うと、Uターンをしている田中くんに投げつける。


 ガイン!!


 田中くんは、ショートソードで苦もなく石つぶてを払う。

 なるほど、ではこれならどうだ?

 俺はさっきよりもひと回り大きい石をつかむと、こちらに突進してくる田中くんに思いきりぶんなげた。


 ガイイィン!!


 ショートソードでは対処できないと考えたのだろう。田中くんは重心を後ろに倒して大楯を垂直にたてる。

 そしてそのまま俺に向かってシールドタックルをぶちかましてきた。


「ぐうっ!!」


 左手の義手を構えてシールドタックルに備えるも、ずりずりと押されてしまう。

 ううむ。このまま少しずつダメージを蓄積されてしまったらジリ貧だ。

 多少無理をしても、短期決戦にもちこまないと。


 ブオオォォォォォォォォォォォン!


 俺は、突進してくる田中くんに、さきほどと同じ大きさの石をぶん投げる。

 当然、田中くんは大楯を垂直にたてて、攻防一体のショルダータックル体制へとうつる。


 俺は左腕の義手をすばやく外すと、左足の痛みをこらえて大きく振りかぶり、ありったけの力をこめて義手をぶん投げた。


 ガイィィィィィン!!


 良きせぬ連続攻撃に、田中くんは慌てて縦から顔を出す。


 もらった。


 俺はそのまま突進して、田中くんの首を正面からわしづかをみにして倒しにかかる。


「ぐえっ!!」


 大楯の推進力に煽られた田中くんは、その場で面白いように180度回転する。俺は田中くんの首を持った手を後頭部に持ち帰ると、そもまま体重を乗せて地面に叩きつけた。


 バキィ!!


 地面にしたたか顔面をぶつけた田中くんのサングラスが割れる音が聞こえる。

 俺は静かに質問した。


「まだ、やるかい?」


 田中くんは、地面に顔をうずめたまま静かに首を横にふった。


「カンカンカンー! 勝負アリー! 勝者はロカちゃんのADのおじさんでーす!」


 未蕾みつぼみミライの能天気な声で、模擬戦が終了する。


「バトルの後は、お待ちかねのもぐもぐタイムでーす!

 今日のデザートは、この風景をモチーフにしたグランドキャラメルミルフィーユでーす」


 小柄な未蕾みつぼみミライが、巨大なミルフィーユが乗ったお皿をヨタヨタと運んでくる。


「バトルの後は、ノーサイドー!

 みんなで仲良く分け合いましょー!」


 俺は、絶品キャラメルミルフィーユに舌鼓を打ちながら、2キロ以上あろうとおもわれる巨大ミルフィーユを、ほとんどひとりで平らげる未蕾みつぼみミライのとんでもない食欲に驚嘆をしていた。




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