第87話 おじさん、配信映えをガン無視する。
(
(はいッス!!)
さてと、状況を整理しよう。
相手は一流の探索者ふたり、でもってこちらは武器の義手を氷漬にされたとくる。
とりあえずだ、義手無しでは攻撃を受けることができない。
仕方がない、戦い方を変えるか。
俺は右に走り、田中くんの左脇を蹴りにかかる。
ガイン!
当然、田中くんは大楯でガードする。が、これでいい。
ガイン! ガイン! ガイン!
俺はひたすら右に回り、田中くんのショートソードが届かない、大楯の左側を蹴り飛ばす。
(っく……やっかいっスね!
鈴木くんのあせり声が聞こえてくる。
ふたりの持ち味は息を合わせた挟撃だ。俺は、その持ち味を潰しにかかる。
ひたすらに右に動いて田中くんの攻撃が届かないポジションを取り続ければ、安全を確保できる。そして俺の裏をとろうとする2メートルの槍を持った鈴木くんも、大回りさせることができるって寸法だ。そして、
(ふうっ……このままでは
(ホントっす、こんな戦い全然配信映えしないッスよ! 俺、もう少し距離を積めるっス!!)
(あ、おい! まつんだ鈴木!!
地味でたいくつな攻防にじれた鈴木くんが、猛ダッシュで近づいてくる。
よし、かかった!
俺は、今までよりも、より勢いをつけて、田中くんの大楯を蹴っ飛ばし、大きくジャンプをする。そして着地したのは、
バリン! ピキピキピキ……
着地した左足がみるみると凍っていく。そう、鈴木くんが設置した氷結のトラップだ。
俺は、凍った左足を軸にして、思いっきり右足を振りかぶると、足元にある義手をあらん限りの力を込めて蹴り上げた。
パキ、パキパキパキバキバキバキィ! ブォォン! ブォォン!! ブォォン!!!
義手は、氷のトラップをくっつけたまま、うなりをあげて鈴木くんめがけて高速回転しながらすっ飛んでいく。
(はぁ? ちょ、ちょっと待って……)
「びぎゃ!!」
大きな氷塊がくっついた義手は、前傾姿勢で距離を詰めていた鈴木くんのアゴにクリーンヒットする。
氷塊が散らばるなか、鈴木くんはぐらりと力なく両膝を地面について、そのままうつ伏せに倒れた。
よし、こんどこそ、まずはひとり。
左足は傷んだが、充分過ぎるリターンだ。
俺は凍えた左足を引きずって、倒れた鈴木くんのもとにかけよると、そばに転がっている義手を回収して左手に装着する。そして、
「まだ、やるかい?」
と、田中くんに向かって挑発気味につぶやく。
すると、小さな小さな声で田中くんが返答をした。
(会話を盗み聞きとは……
「おっと、いつからバレていた?」
(最初からです。そりゃ疑いますよ、俺たちの挟撃を完璧過ぎるタイミングで避け続けるんですもの。ですが、確信を得たのは、鈴木の氷のトラップにハマってくれた時です。キャラに似合わず、叫びつづけた
「なるほど。なぜ鈴木くんには話さなかった?」
(伝えないまま、鈴木を泳がせたほうが戦局を有利に運べるとおもっていたのですが……裏目にでました)
「なるほど。で、最初の質問には答えてくれるかい?」
(もちろん「YES」ですよ!!)
田中くんは、吸入器に緑のシェールストーンを入れると、カシャカシャとよく振ってから大盾にセットする。すると、大盾は、明るい緑色に輝きはじめた。
そして、その大盾を地面に倒して上に乗っかると、片膝をついて、大盾についた紐、リコイルスターターを思い切り引っ張った。
ブルルンッ! ブルルンッ! ブルルブルルンッ!
大盾は派手なエンジン音を立てて、ゆっくりと宙に浮く。
なるほど。以前、
あの大盾は、市販モデルに似せたオリジナル。つまり田中くんは、数少ない、本物のシルバーライセンス資格者ということだ。
(……き……ま……よ!)
田中くんは、エンジン音でほとんど聞き取れない小さな声でつぶやくと、猛スピードで大盾に載って突進してきた。
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