第81話 おじさん、現在の境遇を愚痴る。
探索者の朝は早い。
俺は、ササメが起きないように注意深く支度を済ませると、家を出てまだガラガラの電車に乗った。
まったく、こんなことになるなんて聞いてないぞ!
『なぁに、元最強探索者の名のもとに、講演会で当時の話をしたり、一日署長として未制圧のダンジョンへ近づかないよう市民に注意を促したりしてくれりゃいい』
なんて事を言っていたのに、蓋を開けてみればどうだ。出張、出張の連続だ。
しかも後進を鍛えるためにと、探索者相手に模擬戦をつづける毎日だ。
全国各地にあるダンジョンを津々浦々、潜ってはバトルの繰り返し。
せっかくササメと一緒に過ごす時間が増えると思っていたのに……とんだ見当ちがいだった。
でもまあ、幸い、今日の現場は愛知県。日帰りでも充分に帰ってこれる距離だ。
俺は、電車の中でなれないスマホを操って、名古屋行きのチケットをゲットすると「ふう……」と、ため息をつく。
しかし、なんでみんな俺なんかと戦いたがるんだ?
それも相手はイエローライセンス以上の上級者ばかり。今日の対戦相手に至っては、シルバーライセンス、いや、シルバーに偽装したネイビーライセンスの持ち主。つまりダンジョンの最下層まで潜ることができる超一流の探索者ときた。
相手の名前は、田中と鈴木。
最硬の探索者、
今は『
サポート要員とはいえ、スーツ姿にサングラスをかけたスタイリッシュないでたちで、素人同然の
そんな人気、実力ともに一級品の探索者が、一体何の用なんだ?
「ふあああぁ」
昨日は広島の呉から日帰りをする強行軍だったからな。さすがに睡眠時間がたりていない。
『次は東京~。東京~』
よし! 新幹線の中で絶対に仮眠を取るぞ!
俺は、キオスクでおにぎりとお茶のペットボトルを買うと、東海道新幹線の改札へと向かった。
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