第74話 美少女、生配信の準備をする。

*ここからしばらくロカ視点のお話です。


 アタシは今、千葉県に発生したダンションにいる。地下6層。2メートル級のモンスターが闊歩かっぽするダンジョンだ。


 これから、ダンジョンの生配信をスタートする。

 うしとらのダンジョンから出てアタシの配信環境はずいぶんと変わった。ヒサメさんの事務所にはいったからだ。


 地上から撮影するカメラマンふたりと、ドローンカメラマンがひとり。メイクさんまで同行している。

 浮遊型AIカメラ1台で、なにからなにまで、全部ひとりでやっていたのが懐かしい。


 今日は、アタシの〇〇〇〇せんようぶきをお披露目する大事な回だ。


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「ロカ。正直に言ってしまうと、お前の能力では、霜月しもつきカノエの戦闘スタイルは向いていない」


 うしとらのダンジョンの最下層で、おじさんに言われた言葉だ。


霜月しもつきカノエの真骨頂は、黄色いシェールストーンを大量摂取してからの、異次元の瞬発能力だ」

「わかってるよ。だからアタシも黄色いシェールストーンの反動に耐えられるように身体を鍛えているんだもの」

「……残酷なことを言ってしまうが、ロカ、お前の身体では、黄色いシェールストーンを1個吸入するのが限界のはずだ」

「そ、それは、まだまだ身体のきたえ方が足らないから……」


 アタシが反論すると、おじさんはアタシの目をずっと見つめてきた。そして、


「これはの問題だ。身体をきたえてどうこうなる問題じゃあない。

 霜月しもつきカノエは、シェールストーンを吸収して脅威的な瞬発力を宿す『自我の星』。

 そして俺は、シェールストーンを吸収して耐久力を向上させる『自己の星』。

 ロカ、おまえはそのどちらでもない」


 アタシは、おじさんに恐る恐る質問する。


『それって、アタシに才能がないってこと??』

『いや、そうとは言ってない。ロカは、俺や霜月しもつきカノエとは、適正、つまり伸ばす能力の方向性が違うと言うことだ』


 そう言うと、おじさんはノートの端に携帯番号を書き、それをちぎって私にわたした。


『このダンジョンを出たら、その番号に電話するといい。そいつが、お前に最もふさわしい戦闘スタイルを教えてくれるはずだ』


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 うしとらのダンジョンを出たアタシは、さっそくメモに書かれた番号に電話した。

 その人は、とっても忙しい人で、アタシにくれたアドバイスもほんの少しだったけれど、それだけで充分だった。


 アタシは、右手の手のひらを見る。

 毎日の練習で、豆だらけになった右手だ。

 アタシは、右手を固く握る。信じろ、ロカ。自分を信じろ。積み上げてきた努力を信じろ!!


「ロカちゃん、そろそろ撮影を始めるわよ」

「わかったわ。ヒサメさん!!」


 アタシはとびきりの笑顔で、撮影現場へと駆けていった。



 


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