第73話 おじさん、スマホデビューする。

 駅につくと、俺はさっそうとスマホを取り出して自動改札をくぐる。


 ピッ!


 自動改札機は機械的な音をたてると、通用ゲートが無愛想に開く。

 ふう、やっぱりスマホで改札をくぐるのは緊張するな……。


 うしとらのダンジョンから15年ぶりに地上にもどったササメは、時代のながれに驚愕した。まるで浦島太郎状態だ。(ササメの場合、歳をとるんじゃなくて若返ったのだが)


 中でも一番興奮したのはスマートフォンだ。


「なにこれ!? 今のパソコンってこんなに小さくなってるの??」

「コンピューターじゃない、電話だ。それに携帯電話よりも大きくなっている。たかだか電話にあれやこれや機能をつけてもしょうがないだろう。電話は、電話さえできれば良いんだ」

「何言ってるのよ! 手に収まるサイズのパソコンを、だれもが簡単につかえるのよ。とんでもない進化だわ!!」


 興奮したササメは、ダンジョンから帰るその足でスマホを契約し、ついでに俺も無理やり購入させられた。

 その後、メッセージアプリやら、動画配信アプリやら、なんだかいろんなものを強制的にダウンロードさせられて、半ば強引に使わされる日々がおとずれた。


 最初は苦痛以外の何物でもなかったが、使ってみるとなかなかどうして便利なものだ。中でもメッセージアプリがお気に入りだ。

 ササメやロカから送られてくる、やたらと長いメッセージにも、スタンプひとつで返事ができて、面倒な会話のやりとりを打ち切ることができる。


 あとは、やはり動画アプリだろうか。流行りの動画は全く意味がわからないが、知り合いが出ている動画を見るのは楽しい。


 俺は電車に乗り込むと、椅子に座って動画アプリを立ち上げる。


(ダンジョン つ……ゆ……はっし……ロカ)


 俺はなれないフリック入力でどうにかこうにか検索ワードを打ち込むと、一番トップに見慣れた顔を見つける。


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『ラブロカチャンネル』

ドキッ! ロカちゃん初めての生◯◯◯◯を大公開!

恥ずかしいけど全部見せちゃう♪

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 黄色い極太フォントで、なにやらいかがわしいあおり文句が踊っている。


 ん? ライブ配信中??

 そうか。今は春休みか。てことはロカも高3か。時が経つのは速いものだな。

 俺は軽い浦島現象をあじわいつつ、いかがわしいタイトルのライブ配信の再生ボタンを押した。


 

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