第75話 美少女、初めての◯◯◯◯をお披露目する。

露花つゆはなロカさん、入ります!!」


 アタシが撮影現場に行くとADさんがスタッフの皆さんに声掛けをする。


「おはようございます!!」

「おはようございます!!」

「おはようございます!!」


 アタシは満面の笑みでスタッフの皆さんに挨拶をしながら立ち居位置につくと、腰につけたポーチから黄色いシェールストーンを取り出して、両手でパキリと割った。

 黄色い煙がもうもうと立ち込める。シェールストーンに閉じ込められていた黄色いマナだ。アタシは、その煙を胸いっぱいに吸い込むと、ヒサメさんに手で輪っかをつくってOKサインをだす。


露花つゆはなの準備、整いました」


 ヒサメさんの言葉にうなづいたディレクターさんが大きな声を貼りながら、手をあげる。


「本番まで10秒前~! 8、7、6、5、4、3、……、……、!!」

「L・O・V・E・L・O・K・A! ラブロカチャンネル配信開始でーす!!

 うわぁ、たくさんのギャラリー! そんなにアタシの初めての◯◯◯◯に興味があるんだぁ♥」


 ちょっと生意気なメスガキモードでライブ視聴者を挑発すると、嵐のような書き込みが流れていく。


《モチロン!!》

《もう2時間前から待ってる!》

《絶賛全裸待機中!》

《早く! 早く! ◯◯◯◯ってなに??》


「んふ♪ そんなに見たいのぉ? じゃ~あぁ、ライブ配信を見てくれているみんなにだけ、特別にノーモザイクで魅せちゃいまーす♥」


 書き込みの嵐がさらに激しくなるなか、アタシは腰につけていたシェールストーン製の武器をはずして、カメラに向ける。

 全長30センチくらい。シェールストーン製のワンド……指揮棒だ。


「じゃじゃーん! アタシはじめての専用武器、露花つゆはなロカ専用モデルでーす!!」


《な、なんだってぇー!》

《だまされたw》

《せっかく全裸待機してたのにww》

《ま、普通に考えたらそーだよなぁ》

《でも、こんなちっちゃな杖で、どうやってモンスターと戦うんだ??》


「やだぁ! エッチなこと考えてた人いるー♪」


 アタシは、視聴者の想定通りの反応に、にんまりとした表情をうかべながら、話をつづける。


「この武器は、アタシの想像を形にできる魔法の杖なの!

 あ、あそこにちょうど恐竜型の群れがいるから、サクッと倒してみるね!!」


 そう言うと、アタシはポシェットについた、4つのボタンを次々に押していく。ボタンを押すことで、シェールストーンを砕いてマナが抽出できる仕組みだ。

 アタシは精神を集中して、直径30センチほどの、限りなく真円に近い円を描いていく。


 すると、


 フワン……フワン……ブワン……フワン……


 緑、緑、青、緑……シェールストーンから溢れ出たマナが球体となって、ゆっくりとアタシの身体の周りを回転していく。

 アタシは、その球体のひとつを、シェールストーン製の指揮棒で素早く3回斬りつけると、そのまま斜め前へと振り上げた。


八分音符の上昇気流エイトノーツ・ドラフト!!」


 小さな竜巻が8つ階段状に発生する。竜巻を細分化することで、空中での身体制御をより繊細に行える。


 アタシは竜巻をどんどんと駆け上がると、6つ目の竜巻を蹴り上げたところで、緑のマナを、縦、横、2回ずつ切り裂いて、青いマナにくっつける。

 すると、融合したふたつのマナが、モクモクと膨らんでいって、小型な雨雲へと変質していった。


 8つめの竜巻に飛び込むと同時に眼下を見る。地上では恐竜型のモンスターが全部で14体群がっているのを確認すると、アタシは落下をしながら雨雲に指揮棒を思いっきり突き立てた。


十六分音符の稲妻シックスティーンノーツ・ライトニング!!」


 雨雲は16本の稲光を五月雨のごとく恐竜型に浴びせかける。

 これで恐竜型のほとんどは、電気でしびれて動けなくなったはずだ。


 アタシは落下しながら、最後に1つだけ残った緑色のマナを、指揮棒で真っ二つに切り裂いた。


二分音符の武装ハーフノーツ・アームズ!!」


 アタシは、真っ二つにした緑のマナの片方に指揮棒を突き刺す。するとマナはたちまち鋭利な刃物へと変化する。

 残りのマナは、小型な円形シールドになってアタシの左肘の下をおおった。


「よーし! 最後の仕上げいっちゃうよん!!」


 アタシは稲妻に打たれて、無抵抗状態の恐竜型を、指揮棒ソードで切りつけると、恐竜型のモンスターは次々とシェールストーンへと変化する。


「ギャオオオオゥ!!」


 あ! 一匹、稲妻を逃れた恐竜型が一目散で逃げていく。


「逃さないよ! ライトシールド・ソーサーモード!!」


 アタシは身体を思いっきりひねると、その反動を利用して、左手のシールドを恐竜型めがけて投げつける。

 シールドは、うなりをあげながら回転して側面から刃を出すと、逃げる恐竜型を真っ二つにした。

 そして、大きな弧を描いてゆっくりとスピードを落として、アタシの左腕におさまった。


《な、なんだってぇー!》

《めちゃくちゃスゴイ!!》

《カッコよかった!!》

《鳥肌立った!》

《新武器強力すぎ!!》

《ロカちゃん、めちゃくちゃ練習したんじゃない?》


 滝のように流れていく書き込みに、アタシはキャラをつくって笑顔で受け答える。


「ううん。ぶっつけ本番だよ。アタシが恐竜型みたいな雑魚雑魚モンスター相手に練習なんてするわけ無いじゃない!!

 それじゃあ、今週はこれまで!! L・O・V・E・L・O・K・A! ラブロカチャンネル、チャンネル登録よろしくねー!!」


 右手を振りながら笑顔で答えると、アタシはある書き込みに気がついた。


《てまめどりよくつわかる》


 なんだろう? 手まめ……努力……つか……伝わる? ……かな??

 あたしは書き込み主の名前を見た。

 『小次郎』って書いてある。

 これ、おじさんの書き込みだ!!


 おじさん、アタシのライブ配信を見てくれたんだ!

 そっか、見てくれたんだ……アタシの数ヶ月の努力の成果を。


 アタシは、おじさんのつたない書き込みを何度も何度も見返して、胸がいっぱいになっていると、頭の上から、ディレクターさんの声が聞こえてきた。


「ロカちゃん、お疲れ様ー! いやー今回も最高だったよ!!

 ん? どうしたの?? ロカちゃん???」


 アタシは大慌てで込み上げてくる涙を手のひらでぬぐうと、飛び切りの笑顔をつくって、ディレクターさんに返事をした。


「ううん、なんでもないです!!

 今日も、カワイク撮影してくれてありがとうございます!」

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