第71話 美少女、ダンジョンから帰還する。

「さて、これからどうする?」


 2匹の赤ちゃんケルベロスが魔法陣の中に吸い込まれるのを見届けたおじさんが、アタシたちに向かって質問をする。


「ワタシはこの場所に残るわ。ケルベロスは、先に逝った1匹と一緒に眠らせてあげたいから」


 ササメさんは小さな石塚を眺めて答える。


「私は戻るわ。新たなケルベロスが誕生したことを、一刻も早く政府に伝えないと」

「アタシも……戻る……かな? そろそろ学校の出席日数が危ないし、来年の大学受験に影響が出ちゃいそうだから。それにタラちゃんを、いつまでもミライさんに預けっきりってわけにはいかないし……」

「じゃあ、決まりだな。俺たちは地上へ戻る。ササメ元気でな?」


 ササメさんは、一瞬さびしそうな顔をしたけれど、すぐに笑顔に戻って、


「あなたも元気でね」


 ニッコリ微笑んだ。


「よし、決まりだ。明日7時、地上を目指して出発だ。ロカ、寝坊するなよ!」

「大丈夫、大丈夫! 任しておいてよ!」


 アタシはおじさんに向かって親指を立てると、ヒサメさんと見つめあって小さくうなづいた。


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 ・

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 ダンジョン探索者の朝は早い。でも今日は特別に早い。

 時刻は午前5時10分前。アタシとヒサメさんは、荷物をまとめてすっかり帰り支度をすましている。

 生活必需品を、ぜんぶ最深層に置いて帰るから、背中に背負ったリュックは随分と軽い。


「じゃあ、姉さん。次は3ヶ月後に来るわ」

「アタシも!!」


 アタシたちを見送るササメさんは、ちょっと困ったような、恥ずかしそうな顔をしてアタシたちに問いかける。


「本当に、小次郎さんは置いていくの?」

「モチロン! おじさん、ササメさんのこと15年も待たせていたんだよ!! 信じらんないよ!!」

義兄にいさんが監視していた庚申こうしん塚の監視は、私たちがひきづぐわ。

 もっとも、すでに2ヶ所は壊されてるようだし、今はダンジョンアトラクションが建設中だから、オープンしないと部外者は入れないけれど」

「……そうね。ケルベロスは出産のために、ほとんどすべての力をつかってしまっているから、封印も意味をなさなくなっている気もするけれど」


 そう言いながら、ササメさんはお母さんケロベロスを見る。


 お母さんケルベロスは、連日のおっぱいやりと、昨夜の赤ちゃんケルベロスの転送で力を使い果たしたのだろう。鉄柱を打ちつけられた頭と一緒に、封印が解かれた頭もぐったりと地面につけて、ガリガリの身体を横たわらせている。


 ……もう、長くはないんだろう。


「じゃあ、私たちもう行くから」

「ササメさん! おじさんと仲良くね!!」

「もう! ロカちゃん、おばさんをからかわないでよ……」


 そう言いながらも、ササメさんはどこか嬉しそうだ。

 アタシとヒサメさんは、ササメさんに手をふりながら、すり鉢状になったダンジョンの急勾配を登っていく。


 5分くらい経っただろうか。ようやく起き出したおじさんが大慌てで走ってくるのが眼下に小さくみえてきた。


「おい! おい!! おい!!

 なんで俺を置いていくんだ!!」


 アタシとヒサメさんは、ふたりで見つめあうと、おじさんに向かって叫ぶ。


義兄にいさん! お姉さんをよろしくね!!」

「おじさん! ササメさんとお幸せにー!」

「は? はぁ!?」


 おじさんの動揺した声がダンジョンに響き渡る。慌てている表情が目にうかんでくるようだ。

 慌てるおじさんをよそに、ササメさんは、おじさんに向かって左手を差し出している。

 おじさんは頭をかくと「はぁ」と大きなため息をついて、右手でササメさんの手を握り返した。


 おじさんとササメさんは、仲良く手を繋いでキャンプ地へと帰っていく。

 その後ろ姿は15年のブランクを感じさせない、とても自然な姿だった。


 アタシはその姿を胸いっぱいになりながら見つめていると、視界がぼんやりとにじんできた。涙が。あふれてきたんだ。


 そっか……アタシ、結構……いやかなり真剣に、おじさんのことが好きだったんだ。


 アタシは溢れてくる涙を手のひらでぬぐうと、隣にいるヒサメさんもハンカチで涙をぬぐっていた。


 もしかして、ヒサメさんもおじさんのこと……?


 アタシは大急ぎで涙をふくと、とびきりの笑顔でヒサメさんに話しかけた。


「ねえ! ヒサメさん!! 地上に戻ったら、ふたりで女子会やりません??」

「え? 女子会??」

「アタシ、美味しいパンケーキ屋さん知ってるんです! 超人気ダンジョン飯テロ配信者、未蕾みつぼみミライさんのお墨付きですよ!!」

「へえ、いいかもね!!」

「アタシ、思い切ってトリプル頼んじゃおっかなぁ!!」

「うふふ、私も」


 アタシとヒサメさんは、ペチャクチャとガールズトークに花を咲かせながら、ダンジョンの最下層を後にした。


 − 元最強探索者のおじさん。美少女配信者を助けて大バズりしてしまった。

  第1章 うしとらのダンジョン 了 −



 1週間後。午後8時。うしとらのダンジョン第6層、ダンジョンアトラクション建設エリア。


「ふふふ、お前、うちに来るか? みかんならいくらでもあるぞ! 実家から箱で届いているし」

「ブゴブゴ!!」


仕事をクビになった日にケルベロスを拾った。

〜食費を稼ぐために配信者になったらバズりが止まりません〜

https://kakuyomu.jp/works/16817330654639943670

に続く。



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 なかがき

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 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 めっちゃ嬉しいです。


 まだまだお話しは続く予定なのですが、こちらの連載は一旦お休みし、一時期まで同時並行執筆しておりました作品を、キリの良いところまで執筆する予定です。


 最深層で生まれたケルベロスの赤ちゃんが気になる人は、是非ともお読みくださいませ。(ロカやヒサメさんの活躍、そしてざまぁが少々ぬるま湯だった、さかむーへのさらなるざまぁをお求めの方も是非!)


 第2章は1年後のお話し。大人気ダンジョン配信者に成長したロカと、諸処の事情で安定収入が必要になったおじさんがバディを再結成し、新たなダンジョンに挑むストーリになる予定です。


 よろしければ、ひきつづきブックマークをしていただき、ご評価☆☆☆をいただけると幸いです。何卒、よろしくお願いいたします。

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