第69話 美少女、地上に帰還するのがおっくうになる。

 ケルベロスの双子の赤ちゃんが生まれてから10日間が経過した。


 学校は都合3週間休んでいることになる。予定より長い滞在だけど、ネイビーライセンスを取得して初めての任務なんだ。できる限りカンペキにこなしたい。


 ……てゆうのは建前で、本音は2匹のケルベロスの赤ちゃんが、カワイくてカワイくて仕方がないから、帰還のタイミングが延ばし延ばしになっているだけだったりする。


 最初はアタシの手のひらに乗るくらいちっちゃかった2匹の赤ちゃんケロベロスは、お母さんのおっぱいを吸ってぐんぐん成長していった。


 今の体重は4キロくらいかな?

 生まれたてのときは閉じていた瞳もパッチリと開いている。


 赤ちゃんケルベロスの2匹は、双子だけど毛並みがまったく違う。1匹は牛ガラで、もう1匹は黒毛だけど、胸元はエプロンみたいに白い毛で、足先も白いソックスを履いているみたい。


 性格もぜんぜんちがう。それどころか、3つの頭、ひとつひとつがまったく違う性格だ。

 2匹……いや6匹のケルベロスは、毎日毎日おなかいっぱいおっぱいを飲んで、くたくたになるまで遊んで、電池が切れたようにコテンと爆睡する。


 ケルベロスは、本来、睡眠をとらない幻獣らしい。

 厳密には3つの頭が交互に眠って必ず1匹は起きているそうだけど、まだまだ赤ちゃんの3匹は、遊び疲れると全員眠りについてしまう。


 眠っているときに指を差し出すと、おっぱいと間違えて、アタシの指にチュウチュウ吸い付いてくる。

 そのしぐさは、もう言葉にできないくらい愛らしい。


 おじさんの奥さんのササメさんとも、いろんな話をした。


「ササメさんとおじさんってどこで出会ったんですか?」

「大学よ。ワタシが1年のときに、小次郎こじろうさんは4年生。3歳差よ」

「えええ!? そうなんですか? まったく見えないですよ!」

「生命に作用する黄色いマナには、アンチエイジングの効果があるみたいなの。ワタシは15年の間ずっと最下層にいるから。あと、視力も良くなるみたいで。メガネが必要なくなっちゃったわ」

「へええ、凄いですね!」

「まだまだ、ダンジョン、そしてマナには解明できていない事が多いのよ」


 ササメさんは、とっても穏やかでやさしくて、なんだかお母さんと話している感覚におちいってしまう。

 よくよく考えたら当然だ。だってササメさんはアタシのお母さんよりも年上なんだもの。見た目はどっからどうみても20代前半だけど。

(ひょっとしたら黄色いマナには、アンチエイジングどころか若返りの効果があるのかもしれない)


 おどろおどろしい赤紫色をしたダンジョンの最下層は、ぱっとみ地獄みたいだけど、その生活は天国だった。


 めちゃキャワのケルベロスのお世話をして、ササメさんが育てた採れたてダンジョン野菜(とミリメシ)は絶品だし。

 もうちょっと、もうちょっと……と滞在して、いつの間にか10日間経ってしまったと言うのが本音だった。


 でも、その直後、アタシとヒサメさんは、急いでうしとらのダンジョンから帰還することになる。


 ちょっと、いや、まったく予想だにしないトラブルが発生したからだった。

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