第62話 美少女、まだ見ぬおじさんの元妻に思いをはせる。

「ここの池の底に、最下層に通じる魔法陣が隠されてあるの」

「はぁはぁ……この池の中に、はぁはぁ魔法陣??」


 ひょっとして、この池を泳いでいくの??

 心配の表情が顔に出てしまったのだろう。ササメさんは、クスクスと笑いながらアタシのことを見ている。


「ふふふ、大丈夫よ。泳いで行くわけじゃないから。

 でもその前にお昼ご飯にしましょう。もう1時をまわっちゃってるし」


 そう言うと、ヒサメさんはぬかるんだ地面をさけてリュックを下ろす。

 アタシもヒサメさんにならってリュックを置いて、リュックに入っているレーションを3つ取り出す。いわゆるミリメシだ。


 おじさんとアタシとヒサメさんは、3人並んで腰掛けると銀色をしたレーションの袋をあける。中にはチャーハンが入っている。アタシはチャーハンにスプーンを差し込むと、すくいあげてそのまま口に運ぶ。


「あ! 美味しい!!」


 でしょ? 結構いけるのよ。


「おじさんはいっつもプロテインドリンクだもんなぁ。シェールストーン割りの特訓の時も、3食カロリーバーとプロテインドリンクだったし」

「料理が苦手なのはお互い様だろう」


 おじさんがアタシのことをジロリとにらむと、やりとりを見ていたヒサメさんが肩をすくめる。


「料理が苦手なのは私もよ。1週間くらいならなにを食べても平気だとおもうけど、姉さんみたいに10年以上ダンジョンに篭るとなると、楽しみは食事くらいなものだから。

 あ、でも姉さんは畑を耕して自家農園もやってるから、それも楽しいって言ってたな……」


 ヒサメさんのお姉さんのササメさんってどんな人なんだろう。

 おじさんの奥さんだから、40代から30代後半くらい?

 15年間もダンジョンにひとりで暮らすなんて寂しくないのかな?

 ……今もおじさんのことが……好き……なのかな?


 アタシはおじさんをチラリと見る。おじさんはすっかりレーションのチャーハンを食べ終えて、黙々とチョコレートバーをかじっている。


「あ! ズルイ! おじさんだけ!!」

「なんだ? お前も食べたかったのか?」


 おじさんは、チョコレートバーをパキリと割ると、アタシにその半分をさしだした。


「ありがと……」

「やれやれ、ロカは本当に子供だな」


 アタシはおじさんにもらったチョコレートバーをかじりながら、おじさんとササメさんとの関係に想いを馳せた。

 ササメさんが、もしダンジョンの最深部じゃなくて、ずっとおじさんの側に居たら、アタシくらいの子供がいてもおかしくないんだよね。


 もしアタシが10年早く産まれていれば……いやダメだ。

 おじさん、ヒサメさんですら子供扱いしてるんだもの。


 うーん。お子ちゃまJKのアタシじゃ勝ち目はゼロだ。

(そもそもダンジョンで1週間も寝食を共にしたのに、アタシの好意にまったく気付いてくれないんだもの)


 アタシはササメさんに会う前から、恋のレースの完全敗北を痛感していた。








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