第61話 美少女、第13層に挑む。

 第13層は湿地帯だった。小さな池が大量にあって、そこにハスの花が咲いている。綺麗な景色だけど、歩くのはやっかいそうだ。


 アタシはヒサメさんに質問する。


「最下層までは、どれくらいかかるんですか?」

「最下層に通じる魔法陣は、ここから10キロほど先にあるわ。普通に進めれば3時間くらいでしょうけど、モンスターを避けながらすすむことになるから、1泊2日の工程ね」

「モンスターって……」

「そう、サイクロプス型よ」


 確かに、サイクロプス型に遭遇して毎回対戦していたら、時間がいくつあっても足りなくなる。ってか、命がいくつあっても足りやしない。


「あ、そうそうロカちゃん、一応言っておくけど、最下層の配信は禁止よ。できれば第13層の配信も控えてくれないかしら。わかってると思うけど、これは極秘任務なの。いいわね?」


 ヒサメさんのメガネがキランと光る。


「え? あ、あはは、そんなの決まってるじゃないですか!

 なんてったって、最下層は国家の機密事項ですもんね!」


 危ない危ない。撮影する気満々だったよ。

 アタシはネイビーライセンスなんだ。不用意な行動は絶対につつしまないと。


「ふたりとも、なにのんびり話してるんだ。さっさといくぞ!」


 そう言いながら、おじさんはズンズンと先に進んでいく。


「わ、おじさん、まってよ!」

「そうね、先を急ぎましょう」


 アタシとヒサメさんは、おじさんの後をついていく。

 一時間くらい歩いただろうか。先頭をすすむおじさんが首をひねる。


「妙だな……」

「ええ。モンスターが少なすぎるわ」


 ヒサメさんもおじさんと同じ違和感を感じているようだ。

 たしかに、今まで遭遇したモンスターは、たったの3匹。それも第1層にもいる、ウサギ型やキノコ型やカナヘビ型といった弱小モンスターばかり。

 モンスターは、アタシたちをみるなり、一目散に逃げ出すから、実質の戦闘回数はゼロだ。


「おかしいわね。カノエと一緒に2ヶ月前に探索動画を撮りに来た時は、サイクロプス型はもちろん、8メートル級のモンスターもひしめき合っていたのに」

「低層回にサイクロプス型が現れるのと、何か関係があるのかもしれないな」

「あ! おじさん、ヒサメさん、見て! あそこ、魔法陣が浮いている」


 500メートルほど先だろうか、上空に魔法陣が浮かんでいる。こんな遠くからでも見えるくらいだから、とんでもないサイズのはずだ。

 その魔法陣に吸い寄せられるように、サイクロプス型が宙に浮かんでいる。サイクロプスがたは、そのまま魔法陣の中に吸い込まれていくと、魔法陣は「フッ」っと消え去った。


「なるほど、これで低層回にサイクロプス型がうろついている理由がわかったな」

「ええ。第13層で生み出されたモンスターが低層回に転位されてたって事ね。

 これはもう、が解けかかっていると観た方がいいかもしれないわね」


 封印? ってなんのことだろう?

 アタシは、おじさんとヒサメさんのサッパリわからない話を聞きながら、必死にふたりの後をついていく。


 2時間くらい経っただろうか


「はぁ、はぁ……」

 

 ずぶりずぶりと、踏ん張りのきかない湿地帯のぬかるんだ地面が、容赦無く体力をうばいとっていく。

 綺麗な景色を堪能している暇なんかない。おじさんとヒサメさんについていくのがやっとだ。

 おじさんはモチロンだけど、ヒサメさんも相当な体力だ……アタシ、まだまだだな……。


 アタシたちは、3時間ぶっとうしで歩き続けた。お腹も空いてもうヘロヘロだ。

 もう限界……アタシが声を絞り出そうとした時だった。


「着いたぞ」


 おじさんは、なんでもない池の前で足を止めた。


「はぁ……はぁ……どういうこと??」


 アタシは息も絶え絶えに質問をすると、ヒサメさんが代わりに答える。


「ここの池の底に、最下層に通じる魔法陣が隠されてあるの」


 え? どういうこと??


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る