第57話 美少女の父親、おじさんの元上司をわからせる。

「ハエはてめーだよ! このクソ野郎が!」


 ロカの父親は、逆村さかむらさんの胸ぐらをつかんだまま話をつづける。


「このところ、うしとらのダンジョンの低層回で巨大モンスターが暴れているともっぱら噂なもんでね。責任者に事情を聞こうとしたのだが……まさか、CGで片付けられるとは……」

「ふ……ふは?」


 鳩が豆鉄砲を喰らった顔というのは、こういった顔を言うのだろう。

 ポカンとしている逆村さかむらさんを、ロカの父親は思いきり突き飛ばした。

 逆村さかむらさんは惨めったらしく尻もちをつくと、


「ほげえ!」


 と、情けない声をあげる。


「この10年間、シェールストーンエネルギーに可能性を感じ、あんたの会社に積極投資をおこなってきたんだが……それも今日までのようだ。

 我が会社が20%保有してる株式を、明日売却することにしよう」

「ふはw ちょ、ちょっと待ってください! 本気ですか?」


 尻もちをついた逆村さかむらさんはあわてて起き上がり、ロカの父親をおどろきの表情でみつめる。


「ああ、もちろん」


 ロカの父親は涼しい顔だ。

 対して逆村さかむらさんは、薄ら笑いをしながら話をはじめる。


「ふはw 露花つゆはなさん、あんたどうかしてるよww

 うちのダンジョンアトラクションは、来月第6層まで拡張するんだ。その規模は日本一。つまりは世界最大のシェールストーン産出エリアになるんですよww 将来安泰の有望株をこのタイミングで手放すなんてwww」

「ああ、構わんよ。あんたとは今日でおさらばだ」

「ふはw わかったぞ! 露花つゆはなさん、あんた娘をバカにされて、冷静さを失っているんだww 今ならさっきの暴言を聞かなかったことに……」


 バキィ!

「ぶべら!!」


 ロカの父親は、逆村さかむらさんの顔を思い切り蹴飛ばすと、惨めったらしく地べたを這いつくばる逆村さかむらさんを踏みつけて、ドスの効いた声で言い放つ。


「ああ。私はいま、冷静さを欠いている。そもそも、娘を目の前でバカにされて、憤らない親なんぞいないでしょう!

 これ以上、私がキレないうちに、とっとと消え去るんだな!!」

「ふ、ふはww」


 ロカの父親は、逆村さかむらさんを踏みつけていた足をあげると、逆村さかむらさんは、まるでゴキブリのようにコソコソと畳をはって出口を目指す。

 すると、


「あ、立ちくらみが……」

「ぶべら!!」


 そう言いながら、ヒサメが逆村さかむらさんの背中めがけてエルボードロップを打ちつけた。

 ヒサメは、瞳を赤く晴らしたロカにむかってウインクをすると、ロカはうんとうなづいて、小さくジャンプをする。


「アタシも立ちくらみ!!」

「ぶべら!!」


 ロカは両足で逆村さかむらさんの後頭部に着地すると、そのまま勢いよく、何度も頭を踏みつける。


「ばっ! びっ!! ぶっ!!! べっ!!!! ぼっ!!!!!」


 何度も何度も畳に顔面を打ちつけられた坂村さんは、鼻血をダラダラと流しながらどうにかこうにか起き上がると、俺たちに振り返って、


「き、貴様らw 覚えてろよww 俺をこんな目に遭わせたこと、きっと後悔する日がくるからな!!」


 と、まるで悪役の三下のような捨て台詞をはいて、フラフラと廊下を歩いて去っていった。


「あースッキリした!」

「私もよ。信じられないクズ野郎だったわね」


 ロカとヒサメは満面の笑みだ。よっぽど、サイクロプス型との対戦がやらせ映像と言われたのがくやしかったのだろう。ちょっとやりすぎな気もするけど。

 そしてやりすぎと言えば、ロカの父親だ。いくら娘が辱めを受けたからと言って、それだけで大口であろう支援先から撤退するなんて。


 俺は、素直に思ったことを聞いてみる。


「あの? 大丈夫なんですか? うしとらのダンジョンの支援をうちきっても」

「ああ。全く構わんよ。私は勘と運だけは人一倍強いんだ。うしとらのダンジョンは、まもなく資源が枯渇すると見た。そうだろう?」


 ロカの父親はにべもなく答えると、ヒサメが返答をする。


「資源が枯渇とまでは行かないかもしれませんが、うしとらのダンジョンに異変があるのは事実です」


 そしてつづけざまに、この場所を訪れた理由を説明し始めた。


露花つゆはなさん、その調査の護衛として、娘のロカちゃんをうしとらのダンジョンの最深部まで連れて行きたいのですが……構いませんか?」

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