第56話 おじさんの元上司、地雷を踏みまくる。

「な、なんだ!? 突然??」

「うはw なんだこの非常識なオンナw」


 ロカの父親とおぼしき40代くらいの仕立ての良いスーツを着た男性は、いきなり現れた俺たちに驚いている。

 そして、30代の見知った男、ホストみたいなチャラついたスーツを着た逆村さかむらさんは、俺とロカを見つけるとニタニタしながら話をつづけた。


「うはw やらせダンジョンJK配信者の露花つゆはなロカと、ADの田戸蔵たどくらさんもご一緒ですか?」

「は?」

「やらせ……ダンジョン配信者?」


 俺とロカがけげんの表情をするなか、逆村さかむらさんは気持ちよさそうに話をつづける。


「最近の配信、CGでしょw あんな巨大なモンスター、普通の人間が倒せるわけないでしょw

 よかったねー、ロカちゃんww そこにいる地味なおっさんにに出会ってお色気パンチラ配信者を卒業できてww」

「…………………………」


 父親の前で、お色気配信をしていた事実を暴露されたロカは、顔を赤くする。

 逆村さかむらさんはうつむくロカを見ながら、ごきげんにおちょこで日本酒をひっかけると、さらに話をつづけた。


「それにしても、まさか田戸蔵たどくらさんにあんな特技があったなんて。あんたが作ったCG、めっちゃリアルだよw

 それだけの腕があったら、もっといい職場があるんじゃないの? 霜月しもつきカノエの動画をつくるとかww」


「カノエの探索動画がCGですって!?」


 逆村さかむらさんの言葉に、ヒサメがピキリと青筋をたてる。


「うはw そりゃそうでしょうww

 霜月しもつきカノエはインチキ動画の元祖だしw そもそもサイクロプス型なんて馬鹿でかいモンスター、この世にいるわけないw あんなのヤラセに決まってるっしょww」


「なんなのこいつ!?」

「アタシはともかく、カノエさんもヤラセだなんて!!」


 逆村さかむらさん、数十秒でロカとヒサメに全力で最大級に嫌われてる!

 ……ある意味すごいな。


「で、そのやらせJKがこんな大人の席に無遠慮に立ち入って、なんの用なんだw」

「私に用事があるんだろう……ロカは私の娘だよ」

「うはw マジですか!! さっき話していた絶賛反抗期の不良娘ww

 だったら気がきじゃないでしょう。あんな汚らしいおじさんと一緒にダンジョン探索なんてww」

「……さあ、どうでしょう」


 ロカの父親は、いかにもめんどくさそうに逆村さかむらさんにあいづちを打つ。


「うは、そうかw この娘、金欠で小遣いをねだりにきたのかww

 分不相応な霜月しもつきカノエモデルの武器なんか買うからだよww 露花つゆはな社長も大変ですねこんな金食い虫の娘がいてww」

「…………………………」


 ロカは、ブルブルと震えて、うつむき押し黙っている。

 それはそうだろう。文字通り命懸けで戦ったサイクロプス戦をCGだと言われて、あこがれの霜月しもつきカノエまで馬鹿にされる、さらにお色気配信をしていた事実を父親の前でバラされてしまったのだ。ロカが怒るのは無理もない。


「アタシ、もう限界!!」


 俺は、今にも逆村さかむらさんに飛びかかりそうなロカの腕をそっと押さえる。

 すると、


 バキィ!!

「ぶべら!!」


 逆村さかむらさんは、ロカの父親に思い切りぶんなぐられて、畳のうえにつっぷした。

 逆村さかむらさんは、よろよろと身体を起こして鼻頭を押さえながらロカの父親をにらみつける。

 

「うはw 露花つゆはな社長、なんなんですか!? いきなり!!」

「失礼。ハエがたかっていたようなので追い払いました」

「ハエ? うはw どこにいるんだよww」


 バキィ!!

「ぶべら!!」


 ロカの父親は再び逆村さかむらさんをぶん殴ると、そのまま逆村さかむらさんの胸ぐらをつかんで吐き捨てるようにつぶやいた。


「ハエはてめーだよ! このクソ野郎が!」

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