第54話 おじさん、義妹と共に美少女の父親をわからせに行く。

「ロカ、お前は未成年なんだ。さすがにこればかりはお前の一存では決められない。それとも何か? 両親に話すと都合が悪いことでもあるのか?」


「そんなことない! そんなことない!!

 だけど……パパがアタシなんかのために、時間を割いてくれるか……わかん……ないんだもん……」


「ロカ?」

「ロカちゃん……」


 ロカは、しばらく黙りこくったあと、ゆっくりと話をはじめる。


「パパは、会社の社長で仕事が忙しくて、1週間に1、2回帰って来ればいいほう。

 それに帰ってくるの、いっつも深夜だし……」


 俺は、ヒサメと顔を見合わせる。ヒサメはちいさくうなずくとロカに向かって話しかけた。


「……だったらお母さんは?」

「ママは、アタシが中二のときに、家を出てったっきりだもん」


 なるほど、完全なる放任主義ってわけか。

 俺はロカと初めて出会った時のとこを思い出す。


 初めて会った時のロカは、なんと言うか……そう、刹那的だった。

 分不相応な実力でダンジョンに挑んでみたり、パンチラお色気配信でむりやり視聴者を増やそうとしたり。

 そもそもまともな親なら、まだ未成年の娘に対して死すら自己責任のダンジョン探索を許可するはずがない。


 俺は、軽くため息をつくと、思ったことを口にする。


「なんてこった、あきれた両親だな、特に母親は……」

「ママのことは悪く言わないで!!」


 俺の言葉を、ロカがさえぎった。その瞳は俺をするどくにらんでいる。

 しまった! 軽率ににもどえらい地雷を踏んだみたいだ。


「ママは、アタシが『出てっていいよ』って言ったんだもん!

 いっつも偉そうなパパの言いなりにされて!!

 可哀想だったんだもん!!!

 ママはまだ30代なんだよ!!!!

 あんな男じゃなくって、もっとステキな人がいるはずだもん!!!!!」


「す、すまない……」


 俺はロカに平謝りをする。

 そしてロカの母親が俺よりも10歳ほど若いことに軽く衝撃を受けているところにヒサメが口を開いた。


「なるほど……ね。ロカちゃん、悪いけどご両親のこと、もう少しだけ詳しく教えてくれないかしら。ここじゃなんだから、場所を変えてね」


 ・

 ・

 ・


 俺とロカは、ヒサメの部屋に案内される。

 俺は、夕陽が差し込む高層マンションの最上階の絶景を見ながら、ロカと一緒にリビングのソファに腰掛けている。

 ロカは、さっきからずっと押し黙って、目すら合わせようとしてくれない。地雷を踏み抜いてしまった俺とは話す気がないようだ。


「ロカちゃん、まずはいったん心を落ち着けましょう。

 ハーブティーを淹れてみたの。お口にあえばいいけれど」


 ヒサメは、流れるような見事なしぐさでティーポットからティーカップ3皿にハーブティーを淹れると、最後の一滴まで丁寧にそそぎきり、そのティーカップをロカの前に差し出す。


 ロカはティーカップを持つと、少しだけ明るいトーンで、


「すごく、いい香り」


 と、つぶやくと、そのままティーカップにくちびるを当てる。

 ヒサメはその様子をやわらかな表情でみとどけると、自分もハーブティーを一飲みしてから、ローテーブルに置いてあったノートパソコンを開いた。


「ロカちゃん、もう少し、ご両親……特に、お父様の会社のことを教えてくれないかしら?」

「え? いいですけど……」


 ロカは、ハーブティーをコクリ、コクリと飲みながら、父親の経営している会社のことを話す。どうやらファイナンス系の会社みたいだ。


 ヒサメは、ロカの話を聴きながら、ものすごいスピードでキーボードを叩くと、キラリと眼鏡を光らせる。


「なるほど、シェールストーンエネルギー推進プロジェクトの息がかかっている企業みたいね」

「それなら話が早いな」


 俺は、ヒサメの言葉にあいずちをうつ。


「え? なに?? どういうこと??」


 事情が飲み込めないロカがヒサメと俺を交互に見つめるなか、ヒサメはスーツの胸ポケットから、ネイビーのカードを取り出した。


「ネイビーライセンスが使えるってこと。ネイビーライセンス所持者は国に有事にダンジョン探索を強要される引き換えに、強大な権限を発動できるの。

 具体的には、シェールストーンエネルギー推進大臣と同程度の権力よ」


「え? ええ?? あの故泉こいずみ大臣と同程度ってこと?」

「そう言うこと!」


 ヒサメは、ノートパソコンを勢いよく閉じると、ソファから立ち上がる。


「ロカちゃん、すぐにお父様の会社に向かいましょう。

 可愛い娘をほったらかしにして、奥さんにひどいことする時代遅れのモラハラ野郎にお灸をすえなくっちゃ!」

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