第53話 おじさん、美少女に三者面談を迫る。

「ほらね、カノエはこういう娘なの。いいわ、義兄にいさん。最深部への探索の護衛は、義兄にいさんとロカちゃんに頼むことにするわ」


 ヒサメが苦笑いしつつ言うと、霜月しもつきカノエは、


「そんじゃ、カノエは、素手でシェールストーンを砕く修行に出かけるのだ。さがさないでください!」


 と言って、元気よく屋上から去っていった。

 あっけにとられた俺は、頬をかきながらつぶやく。


「完全に我流で大丈夫か?」

「甘いわ、義兄にいさん、カノエは一度見た技は完全にコピーできる。そこが彼女のすごいところなの。と言うか、習得したい技をコピーするまで絶対に修行から帰ってこないんだけど。まったく。ロカちゃんと義兄にいさんのおかげでまたCM撮影のスケジュールがリスケだわ」


 そう言って、ヒサメは俺のことをにらむ。が、その口角はゆるんでいる。


「なるほど……」


 いわゆる、努力の天才というやつか?

 いや、霜月しもつきカノエという強烈な個性は、そんなありきたりな言葉では済ませてはいけない気がする。


 俺は、霜月しもつきカノエに対して、自分の常識を当てはめるのをやめた。

 彼女は、あらゆる意味で常識を超越した人物なのだろう。


「さて、それじゃあ、ロカちゃん、明後日にはダンジョンの最深部を目指すことになるけど、間に合いそう?」


「モチロンです!! いつでも準備オッケーです」


 ヒサメが話題を最深部探索に切り替えると、ロカは程よいサイズの胸をはる。


「ううん、ロカちゃんじゃなくて、ロカちゃんのご両親の許可をとりたいの」

「えっ……?」


 なんだ? ヒサメの『両親』という言葉にロカの顔が突然ひきつるなか、ヒサメは話をつづける。


「ロカちゃんは、ダンジョン探索者のライセンスの色が何色あるか知ってる?」

「はい、全部で4……じゃない、5色ですよね?」


 ロカは、ヒサメの前に右手の手のひらを差し出すと、一本一本、指を折りながら話を続ける。


「最初にもらえるグリーンライセンスと、今、アタシが持っているレッドライセンス。でもって8メートル級のモンスターが出るダンジョンを探索できるイエローライセンスと、制限なしのシルバーライセンス。最後におじさんが持っているブラックライセンス!」


 ロカの言葉に、ヒサメは首を振る。


「残念、実はもう一色あるの。最深部の秘密を知って人が強制的に所持を義務付けられる『ネイビーライセンス』。ブラックライセンスが廃止になった今、事実上の最高クラスのライセンスよ」


 事態を把握したのだろう、ヒサメの言葉にロカはごくりとツバをのむ。


「ネイビーライセンスはね、一度所持してしまうと二度と手放すことができないの。そして、あることが義務付けられる」


 俺は、ヒサメの言葉をひきついだ。


「国から指令がでると、いかなる理由があろうとも絶対に最深部におもむく必要がある。つまり、生涯ダンジョン探索者という職業を続けなければいけなくなるんだ」


 俺は、ちょっとだけ凄んでロカをにらみつけた。


「な、なんだぁ、そんなこと? それならアタシはとっくに覚悟が完了してるよ!

 アタシの夢は、カノエさんにならぶ超一流のダンジョン探索者になることだもん!」


 俺は、さらにロカをにらみつける。


「ロカ、お前は未成年なんだ。さすがにこればかりはお前の一存では決められない。それとも何か? 両親に話すと都合が悪いことでもあるのか?」


「そんなことない! そんなことない!!

 だけど……パパがアタシなんかのために、時間を割いてくれるか……わかん……ないんだもん……」


 そう言うと、ロカは口ごもってしまった。目にいっぱいの涙をためて。

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