第50話 おじさん、美少女のあこがれの人との再戦を見守る。

 最上階にたどりつくと、ロカは、霜月しもつきカノエのマンションの呼び鈴を押す。


 ピンポーン。


 ほどなく玄関のドアが開いて、オーバーサイズのオレンジ色のパーカーを着込んだ霜月しもつきカノエが元気よく飛び出してきた。


「ローちゃん、お待ちしていたのだ! どれどれ? 特訓の成果はでてるかにゃ?」


 霜月しもつきカノエは、ロカのおしりをモニュモニュとさわる。すると、その顔はたちまちしょんぼりとした。


「5日前とあんま変わってにゃい。これじゃあ、再戦してもかわんにゃい。カノエ、ちょっとがっかりなのだ」

「んふふ。アタシが習得したのは、カノエさんも知らない、おじさん直伝のテクニックです! それを使って絶対リベンジしますから」


 ロカは、霜月しもつきカノエにおしりをモニュモニュと揉まれながら、ニヤリと強気の笑みを浮かべる。

 霜月しもつきカノエは、ロカの強気の笑みに、ニヤリと微笑み返す。


「にゃはは! たしかにローちゃんのおしりには、5日前と違って自信がみなぎっている! 再戦が楽しみなのだ」


 フッ、女の戦いって奴か。絵になる構図だ……上半身にかぎっては。

(下半身は、ロカがおしりをモニュモニュともまれつづけている、なんともカオスな状態が続いている)


「ちょっとちょっと、なに玄関で怪しいことやってるの!?」


 霜月しもつきカノエの家から、エプロン姿のヒサメがやってきた。

 本当に、家事はヒサメにまかせっきりなんだな……。


「にゃはは。ついつい闘志がメラメラと湧いちゃったのだ。そんじゃ、早速再戦といきますか!」


 そう言うと、霜月しもつきカノエはずんずんと廊下をすすみ、彼女のトレーニングスペースのある屋上へのドアをガチャリとあける。


「勝負方法は、前回とおんなじルールでいいかにゃ?」


 屋上につづく階段をのぼる霜月しもつきカノエは、ロカを振り向いて質問する。ロカは、ニヤリと口角をあげて言い返す。


「いいえ! 一回勝負で構いません! アタシがチェイサーで!!」

「にゃはは! ずいぶんと強気なのにゃ!! じゃあ、とりあえずそれで。あとでルールはかえてもいいよん♪」

「はい、ありがとうございます!」


 ロカの無謀とも言える提案に、霜月しもつきカノエはまともにとりあっていないようだ。

 だが、ロカの提案はただしい。ロカが立てた作戦は、相撲におけるネコダマシみたいなものだ。1度警戒されると2度目はない。


 反則スレスレ、限りなくグレーの一発勝負の作戦を前に、緊張したそぶりもなくしたたかな笑みを見せるロカの度胸に、俺は末恐ろしいものを感じていた。

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