第49話 おじさん、美少女の発言に頭をかかえる。

 ロカが、霜月しもつきカノエとパルクールのおにごっこ……チェイスタグ対決をしてから5日が過ぎた。

 俺とロカは、電車に乗って、霜月しもつきカノエとササメが住むマンションへと向かっている。


 今日はダンジョンに潜らないから、ロカは私服だ。

 オーバーサイズのオフホワイトのトレーナーに、黒のショートパンツとニーソックスを合わせている。靴はパルクール対決にそなえてかかとにエアーの入ったスニーカーを履いている。


 ロカに教えを請われた技は、ものの2日間で習得し、残りの2日間で完全にマスターした。今では俺よりも手早くこなせるくらいだ。


 やはりロカはセンスがいい。

 これでもう本当に、俺がロカに教える技は無くなってしまったな。

 初めてあったとき、カメレオン型に吊るされていたことが随分と昔に思えてくる。


 霜月しもつきカノエも言っていたが、ロカは、間違いなく超一流の探索者になれる素質をもった逸材だ。

 まあ、ちょっとばかり、成長を急ぎすぎるきらいがあるが……。


 ロカは両手をギュッとにぎると、誰に話すともなくつぶやいた。


「よし、この技を使って、アタシはおじさんの奥さんに会いに行くんだ!」


 俺は、すぐさま訂正を入れる。


「奥さんって言い方はやめてくれと言ったろう。ササメとはもう、15年近く前に別れたんだ」

「それは、おじさんが一方的に言っているだけでしょ? ヒサメさんの口ぶりだと、おじさんがちょっと頭を下げれば、きっとヨリを戻せると思うんだ」

「おいおい、カンベンしてくれよ!」


 俺は頭を抱える。俺はササメを男だ。いまさら合わせる顔なんてない。

 ヨリを戻そうだなんてもってのほかだ。

 そんな都合の良いことできるはずがない。そんな資格なんてあるはずがない。


「おじさん! おじさん! なにボケーとしているの? 着いたよ、降りなきゃ! 降りなきゃ!」


 ロカは、無邪気に俺の手をひっぱってホームへとを降りる。

 そしてそのまま、重い足取りの俺をぐいぐいとひっぱって駅改札を出ると、駅直結の霜月しもつきカノエとヒサメが住む、マンションの最上階のボタンを押した。

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