第45話 美少女、あこがれの人におもちかえりされる。

 あたしたちはダンジョンを脱出すると、ヒサメさんが運転するアルファードに乗り込んで、カノエさんの家に向かうことになった。

 カノエさんは助手席に座り、アタシとおじさんは後部座席に座る。


 ヒサメさんの運転するアルファードは、郊外にあるうしとらのダンジョンからどんどん都心へと向かっていく。そうしてそのまま完成したばかりの高層ビルに吸い込まれていくと地下の駐車場で静かに停車した。


 アタシたちは、アルファードから降りるとエレベーターに向かう。


「ひょっとして……カノエさんってこの高層マンションに住んでるんですか」


 あたしが恐る恐る聞くと、カノエさんはさらっと返事をする。


「そーなのだ。最上階は屋上も使えてとってもお得なのだ」

「えええ! 最上階!?」

「そーなのだ。このビルの最上階がカノエとヒーちゃんの愛の巣だよん♪」

「カノエ! 誤解される言い方しないの! ただのお隣さんでしょ?」


 カノエさんの爆弾発言に、ヒサメさんは圧強目に否定しながら、エレベーターの『△ボタン』を押す。


「にゃはは! 気にしない気にしない。ヒーちゃんはカノエの家に毎日くるから似たようなものなのだ」

「それはカノエがズボラなせいでしょ? ひとりじゃ何にもできないんだから……」

「にゃはは! ヒーちゃんは頼りになるのだ!」


 カノエさんはほがらかに笑うと、やってきたエレベーターにいち早く飛び込んで、最上階のボタンを連打する。


 カノエさん、普段もCMみたいなクールビューティな大人っぽい人だと勝手に想像しちゃっていたけれど、オフのときのカノエさん、想像よりも随分とちがったな……でもこっちのカノエさんの方が好きかも。なんだか、親しみがあって。


 エレベーターは、しずしずと登って行って、あっというまに最上階に到着する。


 チーン。


 エレベータが開くと、本当だ、真ん中の廊下をはさんで左右にドアがふたつある。

 カノエさんは、左右のドアに目もくれず、ズンズンと歩いて行って廊下の端にある非常階段のドアをガチャリと開いた。

 アタシたちは、ずんずんと階段を登っていくカノエさんの後をついていく。


 カノエさんが、屋上のドアをガチャリと開けると、そこには、たくさんの障害物が置かれたパルクールのステージがあった。


「カノエのトレーニングパークにようこそなのだ」


 そう言うとカノエさんは、かるく助走をつけると、ふわり、ふわりと、まるで蝶のようにパルクールのステージを駆け上がる。


「ローちゃんは、チェイスタグって知ってるかにゃ?」


 ローちゃん? あ、あたしのことか。


「はい、パルクールの鬼ごっこの事ですよね。逃げる人と追いかける人、1対1で20秒間の鬼ごっこをするスポーツですよね」

「そーなのだ。シングルチェイスオフで勝負して、カノエから1ポイントでも取れば、カノエのかわりにローちゃんが最深部にいくって事でどうかにゃ?」


 カノエさんは、パルクールコースのてっぺんで逆立ちをしながら、によによと猫のような瞳でアタシを見つめてくる。


「わかりました!」


 アタシはノータイムでオッケーする。考える必要なんてない。

 最強の女性探索者のカノエさんと勝負できるなんて、またとないチャンスなんだ。自分の実力を確かめる良い機会だ。


 カノエさんはアタシの返事に、にやりと不敵な笑みを見せ、パルクールコースのてっぺんからヒラリと飛び降りた。


「りょーかいのすけ。言っとくけどカノエは手加減しないから、そこんところよろしくなのだ!」


 カノエさんが手を差し出してくる。


「よろしくお願いします! アタシ、負けませんから!」


 アタシは、カノエさんの手をガッツリと握り返す。

 負けられない。絶対に負けたくい。

 アタシが超がつくくらいの負けず嫌いってのもあるけれど、それ以上におじさんと結婚していたササメさんにどーしても会ってみたい。そう、強く強く思ったからだ。

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