第35話 美少女、おじさんと第8層を探索する。

 日曜日、朝9時50分。アタシはうしとらのダンジョンの前にいた。


 アタシは配信用のヘソだしミニ丈のコスチュームを着て、おじさんを待っている。

 先週は、ミライさんとのコラボ配信だったから、おじさんと探索をするのは2週間ぶりだ。


 腰には、おじさんにプレゼントしてもらった、カノエさんモデルのレイピアとポーチをつけている。

 付属のベルトパーツはゴツクてちょっとやぼったかったから、昨日ダンジョンギアショップでアタシの髪色とおんなじ、パールホワイトのエナメルのベルトに交換した。我ながらナイスなコーディネートだ。


 今日はいよいよ第8層に足を踏み入れる。

 アタシは、第8層から第10層までを探索できるレッドライセンスを持っている。


 でも今日は、第8層だけを探索する。


 ダンジョンは階層が深くなるほどマナの濃度が高くなって、モンスターのサイズも大きくなる。

 第8層では3メートル級。第9層では5メートル級。そして第10層では7メートル級までのモンスターが生息している。


 階層による難易度が、最7層までとくらべて、けた違いに大きくなっていく。

 だから今日探索するのは、第8層だけだ。


「あの? 露花つゆはなロカさんですか?」

「はい、そうですけど……」

「ファンです! 一緒に写真撮ってくれませんか??」


 声をかけてくれたのは、アタシと同じくらいの年の女の子だ。


「え? あ、はい! 喜んで!!」


 男の人に声をかけられたことはあったけど、女の子から声をかけられたのは初めてだ。


「サイクロプス戦の動画何度も見ています! ミライさんを助ける姿、かっこよかったです!」


 女の子は、興奮気味に話し始めると、スマホを上にかざしながら連射モードで撮影を始める。

 アタシは、自信のある上目遣いで小首をかしげるポーズをとる。


「わぁ、やっぱりロカさんカワイイ♪ ありがとうございます!

 これからも頑張ってくださいね」

「うん! ありがとう!」


 アタシは女の子と握手をすると、女の子は満足そうに手を振って去っていった。

 アタシは女の子が見えなくなるまで、満面の笑顔でずっと手を振り続けた。


 ダンジョン探索配信を始めたときは、パンチラメインのお色気配信だったから、女の子のファンがつくわけがないって、最初からあきらめていた。


 うれしくてうれしくてたまらない、思わず顔がにやけてしまう。


「なに、にやついているんだ」

「え!? おじさん? いつから見ていたの??」

「最初からだが?」


 う……めっちゃ気まずい。調子に乗ってるところを思い切り見られてしまった。


「そんなことより……似合ってるじゃないか、その装備」


 おじさんは、アタシの腰につけた小さなポーチとサーベルを見て満足そうにうなずいている。

 

「そ、そうかな? ベルトは、衣装に合わせて変えてみたんだけど?」


 アタシは、ご自慢のコーディネートを見せつけて、おじさんからさらなる〝いいね〟を期待した。けれど、


「そうなのか? 全然気が付かなかった。まあ、いいんじゃないか?」

「あ、そう……」


 のれんに腕押しとはこのことだ。

 おじさんにファッションの感想を期待したアタシが愚かだった。


「それよりロカ、今日は初めての第8層だ。モンスターの予習はできてるか?」

「モチロン! バッチリだよ!! おじさん、早く行こう!」


 アタシは、おじさんの義手でできた左腕を両腕でからめとると、一般客の行列を突っ切って受付にライセンスを見せる。

 そうしておじさんと一緒に第8層につながる魔法陣に入り、ダンジョンへと潜っていった。


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